魔導物語 共に歩みて幸多かれ 第六話 義なけれど、勇失わず この村は、遺跡を中心に栄えてはいるが、元々ここらの文明があった時代から存在していた村では無いと言う。 文明があり、滅び、遺跡が残った。そして、そんな遺跡の跡地に村が作られた。 やがて、その遺跡を信仰の対象とする者が現れ、恐らくは元の遺跡の意味とは違うであろう信仰が定着。そして、遺跡の村としても有名になり、観光地としても栄えたらしい。 それの始まりが二百年程前。 そして、現在にいたる。 「…意外に後付けの歴史だったんだな。この村」 遺跡の意味も理由も違うであろうと言うのに、勝手に後から住み着いて勝手に信仰のシンボルにして我が物顔に振舞う。 いつもの事ながら、シェゾは人間の信仰のいい加減さに苦笑いした。 「ちなみに、これはあたしが巫女だからこそ知っている事実。普通、他の人はここの遺跡はもとからその為のものだって思っている」 「有り難いこって」 「…だから、こうなったのよね。きっと…」 話している最中に笑顔こそ無かったが、今のリエラの顔は更に落ち込んでいた。 「『こうなった』? …そこに、話の肝がありそうだな」 「…うん」 リエラは、渇いた喉をジュースで潤し、それを話し始める。 「あたしが巫女だったってのはさっき言ったよね」 「ああ」 「でね、弟もいたの。弟も神官の手伝いをしていたんだ」 「…家族丸ごとで神殿勤めかよ」 信仰深い一家だ。 「でも、神官は当然他の人だから、あたしたちは、言わばお飾り状態だったの。実質の権威は神官長が握っていた。絶対的だった」 「こんな小さな遺跡でね」 シェゾは、人と欲望の相性のよさをしみじみと噛み締める。 神だろうが悪魔だろうが、人は欲からは逃れられないのだろう。 「で、今まではまだそれでも一応はお仕事していたから良かったんだけど…」 「酷いのが現れたって感じか」 「うん…」 リエラはしゅん、とうつむく。 要約すると、この遺跡は元々は信仰の違う文明の遺跡で、しかもかなり『力』の強い文明だったそうだ。 新しい神官はいわゆる神官の家系からの七代目。 権力欲の化身みたいな奴で、今までの奴らが遺跡の力の存在は知っていても、手におえるものではない。と言うくらいは分かっていたので手を付けずにいた、遺跡奥の謎の封印を強引に解いてしまったそうだ。 そして、その日以来神官長は行方不明。 親族はそれらの事実がばれてはコケンに関わると、リエラの弟をろくな説明もせずに捜索に出させした。 そして、彼は帰ってこなかった。 次に、親族は懲りもせずリエラの両親を同じく探索に出させる。 そして、再び帰ってこなかった。 親族は流石にそれなりの実績のある一家が三人も帰らないとなると不安になり、今度はリエラの一家が何かおかしな事をしでかして、神官長である息子が行方不明になったと言い出した。 リエラの両親と弟は事実発覚を恐れて雲隠れ、と言う事にして。 息子はそれを防ごうとして何処かへ行ってしまったと、ヒーローに仕立て上げた。 「…素晴らしく質の悪い話だ。だが、両親や弟がそんな極悪人なら、お前も只じゃ済んでないだろう?」 「んー…。そこは人徳って言うのカナ? あたし達一家ってさ、思ったよりも皆に信頼されていたみたいなんだ。『本当にそうなのか? 理由も証拠も無い』って、皆が言ってくれてさ、逆に印象良くない神官一家は困っちゃって、それで、仕方なくて、あたしの巫女としての資格を剥奪。真相がわかるまで、こうやって一般人ってわけ」 「…なんか、このまま立ち消えそうな話だな」 悪いが、よくあると言えばよくある話だ。絶対的な悪い奴ってのは死ぬか君臨するかだが、中途半端なチンピラはふらふらと生きる。 「そーもいかないのよね」 リエラはそこでふん、と息巻く。 「これでもあたし、あの似非神官よりは力あるの。弟は生きている。分かるの。遺跡のどこかで、あいつは生きている。…父さんと母さんの力を感じないのが、気になるんだけど…。でも、生きている! 弟は生きている!」 シェゾは、だいたい用件を飲み込んだ。 「理由はわかった。目的は何だ?」 シェゾは冷静に問う。 「…目的。目的は…」 リエラがシェゾの目を見る。その目は、自分自身を問うていた。 「えっと…。何て言うか…もし、生きているなら、助けて欲しい…と思う。でも…」 「ただそれだけじゃ、悪人が戻って来ただけにされかねないな。証言だってさせてくれるかどうか」 「…うん」 リエラは、空になったグラスにジュースを注いだ。 「あの…」 暫く黙っていたアルルがそっと手を上げた。 「挙手はいらん。何だ?」 「……」 何で手を挙げたのかが分かるかはさて置き。 「お話、長いんですけど」 「長いっつったぞ。事が始まれば短い。この先の出来事で目がこうなったんだから聞け」 「…はーい」 「…目的は…」 リエラは声を詰まらせる。 「…俺がここに来た目的を話しておく。目的は、ここの遺跡に眠っている力だ。それを頂きに来た」 シェゾは、先に自分の目的を語る。 「…力を?」 「お前が言っていた、手のつけられない『力』さ」 「…どう言う事? モノじゃないよ? エネルギーとか、そういうやつだよ?」 「知らなくてもいい。俺はとにかくその為に来た」 「…じゃあ、元々遺跡に行く気だったんだ」 「今言った通り、極めて個人的な用でな」 「じゃあ、あの、お願い、聞いてくれる?」 「リエラ」 シェゾは彼女を見詰めた。 「な、なに?」 「…お前は、何を頼もうとしている? 俺が、善人とか思うなよ」 「……」 リエラはその瞳に畏怖した。 瞳自体の鋭さもそうだが、巫女として彼を意識し、やっとシェゾの尋常ではない気を感じ取ったのだ。 「う、うん…。でも、聞くぐらいは、聞いてもらえ、ない…?」 女性特有のモノのねだり方だ。 「…聞こう」 いつからこんなに甘くなったかなー…。 シェゾは密かに自分に幻滅する。 「あの遺跡、封印解けてから、なんかおかしいんだ。簡単に言うと、邪悪な気が噴出しているって感じ。しかも、とめどなく」 「…ああ」 シェゾもそれは感じていた。 「だから、弟は出来れば助けて欲しい、でも、それ以上に、あの遺跡がおかしな事になるようだったら…あの、シェゾに、何とかして欲しいんだ。ウチの事よりも、そっちを優先して欲しいの。シェゾ、元々ここの遺跡の力を調査に来たんでしょ?」 どうやら、魔導吸収などと言う非常識を知る筈も無いリエラは、力を頂くと言う意味を探求と取ったらしい。 「…そうだな。その時になったら考える」 「ありがとう!」 リエラは心底嬉しそうに破顔した。 |