第三話 Top 第五話


魔導物語ケットシー物語 第四話



  おせわになるにゃ
 
「…意外に難しいもんだ」
「にゃ…」
 シェゾとミーはその日の夕方、とりあえずの帰路につきながら背伸びをした。
 結局収穫はなかった。見たのは普通通りの双子のケットシーばかり。それはミーをますます寂しがらせるに過ぎなかった。
「いや、待てよ」
「に?」
「どうせ、この街が探索の拠点だ。宿を取るか」
「それいいにゃ! いちいちあんなへんぴなところまでかえるとたいへんにゃ」
「辺鄙は余計だ。辺鄙は」
「にゃ」
 そしてふと…。
「…あれの家に行ってみるか」
「あれ?」
「一人、泣きたくなる位お人よしな奴を知っている」
「にゃ?」
「あいつなら、万が一でもお前の片割を見つければ放っておかない。聞く価値はある」
 シェゾは、彼女の家に向かう事にした。
 
「あ、そだ!」
「にゃ?」
 二人で歩く街の市場。
 アルルは太陽が傾きかけた頃に一つの案を考え出した。
「もしかしたら、いい方法あるかも…」
「?」
「あのね、外見はね、とてもそうは見えないんだけど、意外に面倒見のいい人知ってるの。まさか片方を知っているって事は無いと思うけど、いい知恵をくれるかもしれないよ?」
「にゃ?」
「まあ、ここから遠いから簡単に逢えないのが珠に瑕なんだけどねー」
「にゃ」
「…あ、別に、別にシェゾが完璧とか言うんじゃないよ。うん、欠点なんて沢山あるし、朴念仁だし、イジワルだし…。でも、別にだからって…っていうか…。うん、優しいよ。カワイイ所もあるし…。それに…この前も…ちょっとね…。あん、やだぁ!」
「…に、ににゃ…?」
 ケットシーは、頭の上で独り言を言いながらくねくねと妙な動きをしているアルルを危険そうに見ていた。
「にゃ、にゃぐ…」
 ついでにちょっと苦しい。
 
 そんな暗黒舞踏が街の片隅で繰り広げられていた頃。
「アルル、いるか?」
 シェゾは、アルルの家に着いていた。何度かノックするも返事はない。
「…まいったな。ここまで空振りかよ」
「ふにぃ…」
 ますます落ち込むミー。
「……」
 シェゾも一応落ち込む。最近の行動でここまで予測が外れた事はない。
「まあ、今日はこれくらいにしておこう。夜はもう無駄だ」
「にゃ…」
 元気ならば、夜行性なのだからむしろこれからが活動時間だが、ケガを考えるとそれは懸命ではないのだ。
「さ、宿を探すぞ」
 シェゾとミーは夕暮れの雑踏に消える。
 
「っとぉ! び、びっくりしたぁ…」
 それから暫くした後、アルルはシェゾの家から大急ぎで撤退していた。
「ここまでくれば…わああ!」
 もう家から三十メートルは離れているのに、まだアルル達の頭の上に皿が飛んできた。
 更に逃げるアルル。
 シェゾの家が木々に隠れて見えなくなった頃にやっと静かになった。
「…な、何であんなにてのりの機嫌が悪いわけ? いきなりハナミズ攻撃しなくても…」
「にゃ、にゃあ…」
 肩のケットシーもアルルにしがみ付いて息を切らしている。もう少しでてのりキックの直撃を尻にくらうところだった。
「ま、まあシェゾは居なかったみたいだし、帰ろっか。運動と思って、ね」
「にゃ」
 もう夕闇も深くなり、金星が煌々と輝いていた。
 世ではこれを無駄骨折り、と言う。
 
「ケイは、ちょっときよわなところがあるけど、がんばりやさんにゃ」
 街の宿屋。シェゾは、ミーの話を聞いていた。
「あのときも、ミーをかばったのがそもそものげんいんだったにゃ…」
「そうか」
 シェゾは、しみじみと語るミーに何となく相槌を打つ。
「しんぱいにゃ…」
 シェゾはミーの頭を撫でる。
「明日は見つけるさ」
「あの、ほんとうにおせわになるにゃ…」
 その声は、不安とは別の、ちょっと安堵した声。
 シェゾは、そんな腰の低いミーを見て少しだけ笑った。
 
 
 

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