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魔導物語 陰陽 第三話
 
 
 

  夢の碑

 聖誕祭は二日後に迫っていた。
「眠い…帰って寝ていいか」
「我慢しろ。朝一の巡礼はこの時間からだ」
 陽が昇るか昇らないかの時刻。
 空を見上げればまだ星が空に残るこの時刻。
 二人はマイルス教の、朝の巡礼が始まる時間に合わせて移動していた。
 昼は四十度を超し、夜は夜で零度近くまで下がる気温。
 シェゾはあれほど鬱陶しかったローブをこれでもかと巻き込んで歩いていた。
「まったく、異常だこの土地は。ろくろく眠れやしないし…。睡眠不足は肌の敵だぜ」
「お前は寝過ぎだ」
 そう言いつつも、自分も小さくあくびをするラグナス。
 彼もこの厳しい環境下にはそうそう順応は出来てないらしい。
 何かを言おうとして、ふとシェゾは口をつぐむ。
 ラグナスもにわかに黙りこくった。
 歩いていた細い通路の奥に大通りが見える。
 そしてその大通りには、ぞろぞろと一方向へ向かって歩く集団が絶え間なく見えていた。。
「あれが礼拝者か」
「そうだ。普段は休日だけだが、聖誕祭が行われるその日までの半月位は、こうして毎日朝から礼拝堂へ通うそうだ」
「げ」
 あからさまに嫌な顔で眉をひそめるシェゾ。
「敬虔な信者ともなると、そうでなくてもほぼ毎日通うらしいぞ」
「そいつら、働いているのか?」
「勿論。しかも、お布施の為に働いているようなもんらしい」
「信仰心熱く、いざとなれば命投げだす。生活の中心は祈り。仕事は布施の為、か」
 薄暗い空に星座がまだ見えている。
「パーフェクトな金づるだな」
 シェゾは空を見上げたまま、苦い顔でごめんだ、と毒づく。
「だいたい信仰はそう言うものだろう。まぁ、ここの教団は些か突出しているがな」
「俺、些かってのは、少しって意味だと思ってたが?」
「なら合っているじゃないか」
「…言うね」
 二人は小さく笑い、そして信者の群れに紛れる。
 その瞬間、もう二人は一団と一体となり、二人を見分ける術は失われてしまった。
「髪、見せるな。目立つぞ」
「経験している」
 シェゾは腰に付けていた、どう見てもまがい物であろう小さな宝石の根付けをほれ、と見せる。
「俺も始めて来た時はそうだった。っつーか、買ったのか!? お前が?」
 鳩が豆鉄砲を食った様な表情で驚くラグナス。
 失礼な、と思いつつも、自分でもまぁそう思われるだろうな、と考え、シェゾは続ける。
「…いや、なんか泣きそうだったから…」
 シェゾは、大きな瞳の四歳程度に見えた男の子の物売りを思い出す。
 普段なら無視するものを、何故自分はうっかり買ってしまったのだろう。
 おかげでその後、他の連中から袋一つ分のオミヤゲを買い込む羽目になってしまったというのに。
「へぇ」
 ラグナスは、そっぽを向くシェゾを見て、そっと微笑む。
 無論、それを悟られぬ様に。
「見えてきたぞ」
 ラグナスがわざと話題を逸らす様にして、シェゾの視線を前に促す。
「着いたか?」
 シェゾが目線を追った先。
 そこには、巨大な石壁と白や青の丸い屋根も雄々しい、マイルス教本部教会、所謂聖地。
 聖マイルス教会が建っていた。
「…でかいな」
 素直な感嘆の声。
「建造は千七百年くらい前らしい。最初はちょっと大きな教会程度だったのが、増改築を繰り返して来た。今じゃそこらの下手な国の城よりでかくなっちまった」
「へぇ。よくもまぁ、今まで外圧に晒されなかったもんだな」
「いや、過去に何度か、所謂宗教戦争には巻き込まれて…いや」
「巻き込まれて、何だよ?」
「巻き込まれてって言うか…その、巻き込んだ、だな」
 ラグナスは自分の事の様に申し訳ない、と言う顔で苦笑いする。
「素敵だね」
「立ち上げた当時は、そんな大きな宗教じゃなかった。その頃には当然大きな宗派がいくらでもある訳だからな」
「だよな」
 ただでさえ小さな声で喋っていた二人は、聖地を目指す集団から流れる様に外れ、一番外側まで外れる。
 そして更に、二人は人に解せない言葉に切り替えて話し続けた。
「だが、この教祖は面白い奴だったらしい」
「空でも飛んだか?」
「近い」
 ラグナスはそれ、と指を指す。
「あ?」
「空を飛んだ、って言うか、自分は天からの使いだと言って人々に説法したんだそうだ」
「天使、か」
「しかも、結構血生臭いぞ。マイルスの聖典だと、飢饉と戦乱に苦しんでいたこの国に、鉛色の空が開いて、天から一条の光が差し込んだ、とある。つまり光の差し込んだ場所。それが俺たちが行く聖地だ」
「で?」
「天からの使いとして舞い降りた教祖マイエルが、神の力で彼の地の混乱を収め、そして凶作に喘いでいた人々に食べずとも生きる事が出来る力を与えた、と言う」
「食べずに?」
「なんだと思う?」
「事実だとして…考えられるのはその気にさせるって方法だな」
「多分考えている事は合っている」
「じゃ、あれか? 魔法薬って言うかマジックウイルス、それも感染力があるやつだって言うのか?」
 少々驚いた顔でシェゾが言う。
「らしい。聖典では、死にかけていた人々に聖なる施し、聖痕を与えられた人々が、最後の力を振り絞って後の人々の為。不眠不休の飲まず食わずので畑を耕し、ようやく復興させ、その後に思し召しで天に上がった、とある。そしてその、最初に聖痕を授かった人々の子孫が、マイルス教の上層部となって今に引き継がれている」
「いい話、だ。これだけならな」
「だが、サタンから見せられた、恐ろしく客観的な歴史書で見ると、聖痕って言うのは精神を麻痺させ、肉体的、精神的なリミッターを外し、しかも特定の魔導波に感応し易くなる麻薬みたいなもんらしい」
「わお」
 ストレートな効能に、シェゾはわざと大げさに驚いてみせる。
「それで、有り難くも聖痕を授かった半死の連中は、外見的には復活。マスターのスレイブとして肉体的、精神的エネルギーが枯れ果てるまで木偶として働きましたとさ」
「その後は?」
「肥料」
 さらりと恐ろしい事を言うラグナス。
「…俺、昨日野菜サラダたらふく食ったぞ」
 シェゾは眉をひそめて言う。
「安心しろ。千七百年前の話だし、その畑は聖なる神の畑として教会内の中庭に今も残っている。一般人はそこの作物は食えないよ」
「食いたくねぇっつうの。ゾンビエキス入りじゃねぇか。万に一つも、そのエキスで人が生きる屍にならないって保証は無いぜ。しかもそんな胡散臭い事この上ない聖痕のじゃ」
「だから司教を含めた上層部の人間は、一切陽の下に出られないって話もある」
「マジ?」
「司教達、つまり最初に聖痕を植え付けられた連中の一族みんなにも聖痕は伝わったらしい。聖典によると、それによって一族は長寿となったとある。外出られなくなった…つうか、出たら周囲が大変な事になる容姿になったらしいがな」
「長寿って?」
「記録では最低でも二百四十年」
「長」
「だけど、実際はリビングデッドすれすれだ。最後の方は単に死なないだけ、息をする土人形みたいにぼろぼろだったって言うぜ」
「死んでないから生きていた、ね」
「今の神官、司教連中もまぁ、似た様なもんらしい。神の使いとして悪しき外気には可能な限り触れない様にしているってのが表向きだがな」
「ここ聖地だろ」
「天にとって地上は汚染地帯だって話もある。一応、それと照らし合わせれば疑われる事はない」
 少し悲しげにラグナスは呟く。
 それは事実。
 シェゾも知っている。
「地上って何なんだかね」
 シェゾは少しづつ熱を帯び始めてきた空気にうんざりしつつ、近付きつつある巨大な教会を見上げて呟いた。
 聖マイルス教総本山。
 聖地。
 神の降り立った地。
 選ばれた土地。
 黄金郷。
 ありとあらゆる美辞麗句が似合う荘厳な教会は、人々を見下ろす様にそびえ立っていた。
 聖地教会。
 この教会は、何一つ視界を妨げる物のないなだらかに隆起した丘の上に建っている。
 何も遮る物が無いので、信者があちらこちらから集まってくるのが良く分かる。
 丘の上の教会を目指し、最も人の多い街からの列以外にも、今始めてここに着いた者、町外れに住むスラムの者等が、ぽつりぽつりと長い影を引きづりながら、教会を目指していた。
 街から見て教会の建つ方角は太陽の昇る方角にあり、特に今の聖誕祭の季節は太陽が丁度教会の後ろから昇る。
 教徒達はこの季節、敬虔な者程朝早く巡礼に向かう。
 その理由の一つは、太陽を背負って輝く教会を見たいが為なのである。
「一応、建築物としては掛け値なしに綺麗だ。見ておけ」
 ラグナスが勧める。
「そうかね」
 信者の列から離れていた二人は、群れの中に再び紛れた。
「ほう」
 シェゾは小さいが、素直に感嘆の声を上げる。
「だろ」
 乾燥地帯特有の濃い朝日が、教会を塗った様に黒いシルエットで浮かび立たせている。
 それは荘厳、壮大と言う言葉が確かに似合う光景として成り立っていた。
 やがて二人は教会の目の前にたどり着く。
 大きく開かれた教会内部に吸い込まれる前に、二人はもう一度列から離れる。
 シェゾは改めて教会を見上げ、ふと呟いた。
「なんか、見た感じ幾つか建造物の形式が混ざってないか?」
 シェゾの言うとおり、建物の外壁は乾燥地帯らしく素焼き煉瓦や岩壁だが、その屋根までの作り自体はロマネスク方式。
 そして屋根ネオルネサンス。
 壁を彩る装飾はロカイユらしき作り。
 二人は内部に入る。
 教会内部は、所謂ロココ調が見受けられる。
 つまりこの教会、内部から外壁、装飾に至るまで作られた時代に全盛を誇っていた様式がそのまま繁栄されているという、何ともちぐはぐな建造物であった。
「そうなんだよな…」
 改めて天井画を見上げ、ラグナスも改めてそれを認識する。
 ラグナスの見上げる巨大なドーム上の天井はアーチを連続させて作り上げたゴシック形式。
 その天井には、視界を覆い尽くさんとする宗教画が描かれていた。
 周囲を見ると、そそくさと礼拝を行う為の広場、礼拝場へ足早に進む者、芸術的な天井や柱に向かって何かを拝む者まで実に様々な光景が繰り広げられていた。、
「教典ではあらゆる文化を是正してって事になっているが、教祖の一族にも、内部抗争があったらしい。だから、建設当時の様式を守りながら増改築した部分もあれば、時によってはその時代のはやりを取り入れて増改築した部分もある。辛うじて纏まってはいるが、なんとも不安定なんだよな」
 この場合の不安定とは、建造物の強度等の事ではない。
 建物存在意義としてである。
 シェゾも同感、と頷いた。
「で、救世主様はどこだ?」
 仰々しく壁画の並んだ回廊。
 シェゾは小部屋や司祭達の部屋へ通ずる廊下を物色しつつ問う。
「今日は現れないだろ」
「おい」
「昨日、現れたそうだ。確か一ヶ月ぶりに。しかも、その日は現れただけじゃなく、実演販売したらしい」
「……」
「つまり、早くて次に現れるのは一〜二ヶ月後だな」
「俺、何の為に来たんだよ」
「意味はある」
「無くてたまるか。暴れるぞ」
 睡眠時間を削られ、不機嫌丸出しで抗議するシェゾ。
 ラグナスはまぁ聞け、とだだっこをなだめつつ話す。
「この先に図書館がある。そこに色々面白い本があるぞ」
「んなもん、信者洗脳用だろうが」
「それを知っておいてもいいって事だよ。情報はどんな物でも大事だ。お前にとっても常識だろう」
「まぁ、な」
「それに、連中の傾向と対策が解るぞ」
「まぁ、な…」
 しぶしぶ書庫に向かおうとするシェゾ。
 と、その手を引いて制止するラグナス。
「何だよ」
「礼拝が先だ。敬虔な信者が、最も有り難い朝の礼拝をすっぽかす気か?」
「…やんの?」
 苦虫をダースで噛み潰した様な表情。
「やんの」
 ラグナスはシェゾの腕をつかみ、だだをこねるシェゾを引きずって礼拝堂へ消えていった。

 三時間後。
「……」
「大丈夫か?」
「ここは…地獄だ…」
 顔面蒼白となったシェゾは、礼拝堂からラグナスに肩を貸されつつ退場する。
「耐えろ&慣れろ。これが毎日あるんだ」
「死ぬ」
 壊れた起きあがりこぼしの様に延々と繰り返される土下座に近いお辞儀の繰り返し。
 理解に苦しむ内容の読経の、大声で際限ない繰り返し。
 パニクった虫みたいな動きで行う、偶像への礼拝の繰り返し。
 袋が回されれば、我先にと銭を投げ入れられ、それが複数来れば複数繰り返す。
 シェゾの精神は礼拝開始から三十分でもう崩壊の危機に達しようとしていた。
「帰る寝る」
 もはや助詞を付け足す余裕もない。
「本」
 ラグナスもこれまた体言止めで応戦する。
「なぁ、明日にするってのは? いい意見だと思うが…」
 珍しく、請う様な口調。
「何度も言っているが、明日も明後日も同じ事やるんだぞ。二回も今日と同じ礼拝した後、お前、生きている自信あるか? しかも、聖誕祭は明後日だ。前夜祭の礼拝は今日の三倍以上は内容が濃くな」「行くぞ。ぐずぐずするな」
 シェゾは青い顔を土気色に変え、足早に書庫へと向かい始めた。
「本当にイヤだったんだな…」
 分かるけどな、と苦笑いし、ラグナスは彼の背中を追った。

 それは正に、噂に違わぬ巨大な建造物だと証明するに十分だった。
 礼拝堂から書庫まで、歩幅は広いはずのシェゾですら歩いて十分。
 更に書庫の中で所管に会い、閲覧許可を得るに至るまでに更に十分を要する事となる。
「俺はまた、山でも越えたのかと思ったぜ」
 一度に二百人ぐらい座れそうな、超巨大な長テーブルの真ん中に座ったシェゾが呟いた。
「驚いただろ」
 隣に座ったラグナスは面白そうに応える。
「一つの建物かと思っていたら、中は廊下で繋げているときた。無尽蔵に大きくできる訳だ」
「そう言う事。中央礼拝堂とその関連施設は一つの建物だが、第二から第七まである礼拝堂と書庫、宿舎、大学はそれぞれ建物自体は独立した建造物だ。しかもそれぞれがでかい中庭で間を取ってあるから、尚の事規模が膨らむ」
「この書庫の作り、この土地の建造物じゃないな」
 周囲を見渡して言うシェゾ。
 確かに、書庫は壁にこそ岩や煉瓦が使われているが、殆どは木組みの木造建築物であり、その様式もバロックを強く意識させる作りだった。
 飾り窓にはめてあるステンドグラスは、どう見てもこの地域のセンスではないし、確かあの種類のガラス原料はこの辺りには存在しない筈である。
「ああ、この書庫は、元々大陸を渡って書庫の建造ごと寄贈されたのが大本なんだ」
「大陸渡って…しかも建物ごとかよ」
「で、流石に書庫を満杯にする程の書物はってんで、こちらで追加していったわけだ」
「誰だよ? その豪気な金持ちは」
「不明」
「あ?」
「不明」
「…普通、そんなもん送ったら最低でも目録とか、でかでかと額に飾られた肖像画でもありそうなもんだろ?」
「でも不明なんだ。この書庫、一体誰から送られたのか、まったく不明なんだ」
「…ま、どうでもいいがな。例の本はどこだ?」
「マイルス教聖典第一巻 著者マイエル・パウアー四世」
「…本の名前は分かった。で?」
「あの、二階の真っ黒な本が並んでいるところのどこかにある」
 ラグナスは、吹き抜けのロビーになっている二階を指さす。
「…おい…」
 書庫はただでさえ巨大な作りであり、一階と言っても、本棚の上の本を取る為には梯子を昇らなければならない。
 しかも、その梯子だけで普通の家の二階に余裕で上れる高さがある。
 シェゾが見上げた二階の壁に並ぶ本棚までは、少なく見ても十メートルを超える高低差があった。
「あの一角だけで、百冊以上あるのと違うか?」
「正確には三百二十冊。あの棚の本は分厚いから、他の棚よりは冊数が少ない」
 安心しろ、と微笑むラグナス。
「あのな、冊数が少なくてもページは変わらないだろ…」
「よく気付いたな」
「……」
「さっさと行った方がいい。悩んでいると遅れるだけだ」
 シェゾは足下をふらつかせながら、螺旋階段を上り二階へと上がっていった。
「読み終わったら呼んでくれ」
 ラグナスは手近な本を机に広げ、同意を求めるでもなく言う。
「……」
 この場合、無言は同意だった。
 鉄製の螺旋階段を上る音が消え、暫くは殆どの音が消えていた。
 本をめくる音すら騒音に聞こえそうな程に静まりかえった書庫内には、他に所管がいる筈だというのに、その気配はない。
 無数の著者に囲まれた無数の書籍。
 自分は今、時代を超えた知識の中に埋もれているのだと思うと、ラグナスはここに来たのは初めてでもないと言うのに、実に不可思議な感覚に襲われるのだった。

 およそ二時間が経過する。
 本を読むにはまだまだ序の口の時間だが、彼にとっては久遠に等しい時間の筈である。
 そして、そうでなければ既に夢の世界に旅立っているであろう時間。
 ラグナスは彼が今前者である事を願い、席を立つ。
「シェゾ」
 螺旋階段を上がりつつ声を掛ける。
 返事はない。
 どうやら彼は後者を選択したらしい。
 やれやれ、と溜息をつきながら、ラグナスは二階の読書場所へ向かう。
 そのスペースは本棚に囲まれた場所にある。
 淡く白に光る天窓からの灯りが柔らかな胃陽射しを注ぐが、それでいて絶妙な配置である為、直射日光に本を晒す事はない。
 そんな、本の虫が見たら涎を垂らしそうな理想的環境。
 だが、そこには誰も居なかった。
「シェゾ?」
 一瞬、先に帰ったかとも思ったが、そんな事をすれば明日も同じ事をしなければならぬのは自明の理。
 彼は勤勉家ではないが、根性無しではない。
「……」
 年代を重ね、縁が丸みを帯びたオーク材の大机にラグナスは近寄る。
 そこには、読みかけの大判の本が開いたままで置かれていた。
「マイルス教聖典第一巻…」
 彼は本を読んでいた。
 では、今彼はどこだ?
「誰かを捜しているのかい?」
 ラグナスは驚いて後ろを振り向く。
 突然声を掛けられた事に、そして自分が後ろをとられた事に驚く。
 そして振り向き、ラグナスは三度目の驚きを味わう事になる。
「あなたは…」
 雪の様に白いシルクで編み上げた白のローブ。
 そして、神聖魔法付与を施された白金の糸で刺繍を縫いつけられた、豪華にして清楚な神聖装束に身を包む男が今、そこにいた。

 メイガス・ロズウェル。

 高貴なる現人神。
 光の勇者が今、ラグナスの目の前に立っていた。

 
 
 

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