第七話 Top 最終話


魔導物語 IZA-SENJOU-E! 第八話



  荒原 午前10時
 
 大体は予想通り、と言うか情報通りだった。
 確かな情報を元に行動は促され、ほぼ望むべき流れで進んでいた。
 お互いがお互いの目指すゲリラ連中と接触出来、まんまと進入は出来た。
 だが、いく方がおかしいと言っていい位に、行動はそうそう全てが上手くはいかない。
 二つの部隊は着々と進行し、いよいよ直接対決の時が目前となっていた。
 予定では、ここでお互いがお互いに内部から敵を切り崩し、互いに裏切った、相手の罠だった、と思いこませる事である。
 そして、それを仕組める力があると思わせ、この界隈は危険だと刷り込ませて安全を確保する。
 やや消極的だが、お国が考えた外向的にも安全な方法、と言う訳だった。
 まぁ、当人達にとってはそれ自体はどうでもいいのだが。
「……」
 ラグナスはなんとも言えないくらいに苦い表情で立っていた。
 場所は荒れ放題の平地。
 岩が遠慮無くあちこちに露出し、朽ち果てた木々も否応なしにその場所の不気味さを過剰に演出している。
 そして、トドメが目前に立っている。
 距離は八十メートルはあると言うのに、まるで目の前にいる様なプレッシャーだ。
 爪楊枝以下の大きさにしか見えないクリスタルの剣だが、それは確実に自分の眉間に狙いを定めている。
 そしてそれの持ち主の蒼い瞳は自分の瞳を捉えて放さない。
「……」
 まさかこう来るとは思わなかった。
 おそらく、力のアピールが両名とも少々過ぎたのであろう。
 まさか、両陣が両者をぶつけてくるなどとは、流石に思わなかった。
 お互いに。
「どうするよ? シェゾ…」
「……」
 静かな声は二人にだけ感じられる。
 だが、答えのある問答とも思われない。
「!」
 シェゾから氷の様な気が暴風雨の様に吹きすさぶ。
「……」
 ラグナスは剣を構えた。
 
「一つ、大仕事をやろう」
 今朝の進軍の途中、部隊のボスがラグナスを呼びつけて言った。
「どんな?」
「少し前の情報でお前も知っているだろうが、敵に凄腕の新入りが入ったそうだ」
「ああ」
「それと、これは俺しか知らされてない情報だが、この周辺の情報で面白ぇのがある」
「?」
「ちょうどこの辺りの国にはよ、光の戦士様と闇の魔導士が居るんじゃねぇかって情報があるんだよ」
「…なんのおとぎ話だ?」
「おとぎ話かどうかはともかくだ、興味が湧かないか? 俺達みたいながさつで鼻つまみの傭兵連中に、やたら腕の立つやつが同じ時期に入ってくるなんて」
 
「…何の話だ? がさつな男の割には、随分回りくどくないか?」
 シェゾは値踏みする様な目で見る頭をにらみ返す。
「へっ」
 ボスは野卑する様な顔で笑った。
「まぁなんだ、俺達もそれなりに修羅場をくぐっているんでな。それなりに兵法とかには詳しいつもりよ」
「……」
「たとえば、臆病な小国なら、俺達をどうにかして自滅させて、この辺に近寄らせない様にする方法をよく取るとか、な」
「…陳腐な方法だな」
 これはシェゾの本音である。そして実際それは陳腐だったらしい。
 元より、そんな消極的な案しか通さない国の中心にスパイを潜り込ませるなど軍事大国には造作もない、と言う事を忘れてはならなかったのだ。
「でだ、俺はどうするんだ?」
 シェゾは眉一つ動かさない。
 むしろ、問い詰めている方が冷や汗をかきそうになる冷静さだ。
「大したもんだぜ。嘘かホントかはともかく、希有な古代魔導を真似事でも使えるってんならよ、ウチの国に来れば生涯安泰だぜ」
「……」
 安泰。その言葉に彼が元より興味を示す筈もない。
「ま、色好い返事なんて期待しちゃいねぇよ。さ、本題だ」
 頭はシェゾにずい、と寄る。
「俺らの部隊にも足の速い透波は居てな、何か怪しい事があれば本国に連絡なんてすぐな訳よ。つまり、あんたが何かヘンな事すれば、この国が嫌がっている事が確実に発生するって寸法だ。俺らの大国相手に欺く様なマネしたとあっちゃぁ、こんな国消し飛ぶだろうねぇ。しかも、二つの国ににらまれちゃよ?」
 頭は実にしたたかな口調でシェゾに畳みかける。
 しかも的は得ている辺り、やはり荒くれ者をまとめる技量と頭脳を持っていると言う表れだろう。
 そしてウワサ程度なりとも、光の勇者と闇魔導の使い手がいるらしいと掴む辺り、透波も軍事国家らしくそれなりに優秀らしい。
「で、俺にさせたい事があるんじゃなかったのか?」
「……」
 もう、シェゾがそうだ、とは言わないだけとしても今回の作戦は最早一部始終を知られている。だと言うのに次に口から出る言葉がこれとは、どういう肝を持つのか。
「肝っ玉だねぇ。んじゃ命令だ。お前さんには敵方に居る相棒と本気で戦って貰う。そして、勝って貰う。万事上手くいったなら、どのみちお前さん国には帰れない。ウチの国でいい待遇を考えてやるぜ」
 
「……」
 ラグナスはやれやれ、とため息をついた。
「あんたの国、なぜここまでして相手をつぶそうとする?」
「知ったこっちゃ無いね。ま、眺める程度だったが歴史書を見た事がある。それを見ると、どうも相当の昔に、国交を持った両国の使者がちょうどこの辺りで消息を絶ったそうだ。それ以来、どっちの国が有利に条約を結ぼうとしたから使者を殺った殺らないだのでもめて、いつの間にか国同士でこうなっちまったそうだぜ」
「……」
 ラグナスはめまいを覚えた。
 いつの世、どこの世界でも起こりうる『些細』な行き違い。これほど、怨恨を残す事は無いのだ。彼はこんな理由で滅ぼし、滅ぼされた国を幾つも見ている。
「んな国に住んじまった国民には同情する」
「俺もだ」
 ラグナスは、それこそ意外な表情をする。
 その国民をどれだけ殺めたのか知れない男だ。単なる気まぐれに過ぎない言葉だろう。
 が、その言葉を聞けた。それだけでも何かの収穫になった気がする。
 彼はそう感じた。
「で、敵さんとかち合うのはおそらくこの地図のこの草原辺りだ。まぁ、お前さんの方が詳しいだろうがな」
「……」
 確かに。
 そこは他のどこでもない。
 丁度、あの日シェゾと別れた街道のすぐ脇だった。
 
 …どう来る? シェゾ。
 お互いがどういう状況かは察して有り余る。
 ラグナスは元より、シェゾとて受けた仕事を反故するような真似はしない男だ。
 正直、裏をかくのを生業とすると言っていい連中にこの程度の奇策しか可決出来なかった国の頭脳連中には、やはり色々言いたい事が出てきた。
 しかし、今のラグナスにはその前にやる事がある。
 
 目の前に立つ鬼神とのダンスは、それこそ予定外なのだ。
 
 
 

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