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魔導物語 IZA-SENJOU-E! 第二話



  午後11時35分 ギルドの会議室
 
  第二話  午後11時35分 ギルドの会議室
 
「仮にも国の軍だろ? もうちょっとカタギっぽい面はいないのか?」
 シェゾは、目標となるゲリラ部隊の極秘リストに目を通した後に呟く。
 似顔絵だと言うのに、その顔ぶれは何とも不敵、いや、それを通り越していた。
 絵師を誉めるべきだろう。
 何部隊にも分かれて展開しているゲリラ部隊。その中でも指折り、いや、事実上最強の部隊同士がこの近くに来ていると言う。そんな奴らの顔が穏やかな訳が無い。
「仮もいいとこだがな…。ま、俺もそれ見た時はそう思った」
「っつーかどう見ても悪人…。まあいい。これなら遠慮する必要も無さそうだ」
「強そうだからか?」
「不細工だから」
 シェゾはボソリと言う。
「おいおい」
 マスターが肩をすくめる。
「お前さん、顔で加減を決めるのか?」
「くくっ」
 ブラックは笑った。
「まあいい。でだ、シェゾ、ラグナス。こいつらは、透波(忍者)の情報だと、後八日後には国境に進行するそうだ。そして、集結次第にこの街の外れでひともんちゃくやらかす気らしい」
「って事は、闇に乗じてこの街でも何かやるかも知れないな」
 ラグナスが街の安全を危惧する。
「ゲリラ部隊なんてそんなもんだ。特にこの顔ぶれを見ると盗賊と変わらない」
「お前、顔にこだわるね」
 ラグナスはシェゾに言う。
「だから、少なくともこの街に目が向く前に事を起こす必要があるね。この街は当然非武装地帯。俺達みたいなか弱い女子供ばっかりなんだから」
 ブラックが言うといまいち説得力が無いが、それを口でそういう程、ラグナスも愚か者ではない。
 シェゾは地図を見る。
「成る程な。お互いの進行上にたまたまこの街がある、と。…しかも、この森をかすっているな」
「森? ああ、そうだな。それがどうした?」
 マスターが尋ねる。
「…いや、森を壊すのは良くない」
「ま、そうだが」
 シェゾは思った。ここは、セリリの住む湖がある森。そして、ルートからはやや離れているが、この森にはウイッチの店もあるのだ。
「……」
 ラグナスは、そんな彼の気持ちが何故か察する事が出来た。そして、そんなシェゾを見て口元をふっと緩める。
 
 それから暫く、作戦会議が続いた。
 夜も更けてきたので、ブラックがうどんやピザ、天丼にカレー等の夜食を作った。
「このレパートリーの脈絡の無さは凄いな」
 とシェゾ。
「バラエティー豊かでしょ。お替りあるからね」
 作戦会議は、食欲をそそる匂いを部屋に充満させながら続く。
 ついでにアルコールも入ったので、後半は殆ど居酒屋状態だったが。
 
 次の日の早朝。
「シェゾ。えーと、何だっけ?」
「記憶無くすな」
 二人は、朝も白んでからギルドを後にした。
 もっとも、ラグナスは最初に酔いつぶれたので一番被害は少ない。
 シェゾは、首やら腕やらそこかしこに某黒メイドの歯型をつけていた。
「…奴の前で酒は飲まない方がいいな…」
 こう思うのはこれが初めてではないが、実行出来た試しがない。
 無駄と思いつつも、シェゾは一応次回の目標を掲げた。
 
 昼過ぎ。
 二人は、ジャンク品ばかりの武器、防具を扱う店で、出来るだけ使い古されているような品物を探している。
 窓ガラスはあめ色に曇り、店内の柱は墨を塗った様に黒い。それだけならアンティークな店構えと言えなくも無いが、武器防具の店となると別だ。
 店構え自体怪しい事この上ないが、中の商品もその見た目に恥じない(?)品揃えばかりだった。
「…いやしかし、これ、防具って言っていいのか?」
 ラグナスは、グーで殴っただけでへこんでしまいそうなプレートメイルをベコベコ言わせながら呟く。これならまだ、中華鍋の方が丈夫だろう。
「そういうのを探しているんだろ」
「そうだけどさ、何て言うか、この店、おもちゃ屋じゃないだろ?」
「そういうな」
 言いつつも、シェゾもシェゾで、ナイフを一本手に取ると爪に刃を立てて滑らせる。
「……」
 普通、ハサミを滑らせても爪が削れるものなのに、そのナイフの刃はつるりと滑って指から離れてしまう。
 ちょっと爪を刃で押してみたが、線一つ付く事は無かった。
「…いい店だ」
「まあ、これなら間違っても足はつかないだろ」
 カウンターで半分寝ている白髭の店主。彼が自分の店にそんな誉め言葉を貰っていると知っているのかどうかは分からない。
 二人はこの素晴らしい店で、その時の為の武器、防具、装飾品を一揃えずつ用意した。
 店の主人は、こんなに品物が売れたのは六年振りだと言ってシェゾにはレイピアを、ラグナスにはガントレットをサービスした。道楽でやっているがやはり売れると嬉しい、と言ってお茶まで出して。
 二人は、茶を飲み終わるまで老人の昔話に付き合わされた。
 店を出てから。
「…これ、バーベキューの串か?」
「俺のガントレットなんて、サイズが合ってないし、錆びてるし…」
 金棒みたいなそれと、ぶかぶかのそれを見て二人は力無く笑った。
 
 その日の夜半。
 シェゾの家。
「ラグナス。鎧やアクセサリーはその部屋に置いておけ。あと、たいした物は無いが使えそうなものとかがあれば好きにしろ」
「ああ」
 ラグナスは、借りた部屋で黄金の鎧を脱ぐ。鎧の隙間を守る鎖帷子、そしてサークレットも取ると、随分身軽になった気がする。
 一体、何時からだろう。
 鎧を外した状態の方が違和感を憶える体になったのは。
「で、こいつか…」
 ラグナスはずた袋みたいな買い物袋の中から、ブリキ色の鎧を取り出した。
「ホントに着るのか? これ…」
 ラグナスは、ギャグみたいに嫌な顔をした。
「たまには、下級兵士の気分を味わえ。奴らはそんなのを着て前線で戦っているんだ」
 シェゾは部屋の前で言う。
「知っているよ」
 ラグナスは、所々網目が潰れてしまっている鎖帷子を着てから、鎧を当てる。
 右わき腹の留め金を固定しようとしたら、パキン、と音を立てて鉤が落ちた。
「……」
 下級兵士っつっても、もうちょっとマシな鎧着けてるだろ。
 ラグナスは思った。
「シェゾ。工具あるか?」
「あ?」
 二人は、居間に鎧と工具を並べて少しの間修理工になる。
「で、おさらいするぞ。俺とシェゾは、奴らの部隊に互いに潜り込む」
「そして、その中で陽動。進行を遅らせて、いらんちょっかいを起こすヒマを無くす」
「で、ぶつかり合った時に、更に中からかく乱」
「最終的には壊滅」
「いや、それでもいいが、生かして奴らに伝えさせないと…。ここには近寄るなって」
「そうだな」
「それと、目立つなよ。理想は、同士討ちから始まってお互いの自滅だ」
「覚えてはおく」
「それと、本隊に当たる前に多少は腕が立つと噂を…」
 部屋には暫くの間、鉄を叩くハンマーの音が響いていた。
 
 

 

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