魔導物語 IZA-SENJOU-E! 第一話 九日前 14時3分 宴の始まり 彼は、街の食堂で遅めの昼食を取っていた。時間も時間なので、彼の他にはまばらな人しか居ない。 もっとも、彼は静かに食事をするのが好きだったので、それを狙っての事なのだが。 「まあ、たとえお前がどんなに俗世に無関心だとしても…」 「ん?」 お前、と言われた彼は、食べかけのナポリタンを止めて、いきなり現れていきなり喋り出した男の顔を見る。 「自分の住んでいる土地が荒らされたら、嫌だよな?」 反対側の席に座り、さも当然の様に話し出す。 「だから…」 「つまり、誰の為でも無い、自分の為だ。なら、シェゾの信条から言っても、まったく問題無いよな」 目の前の男はうんうんと頷く。 「…ラグナス、こら」 シェゾは、皿のナポリタンからマッシュルームを一切れ放り投げた。 額にぺた、と付く筈だったそれは、ラグナスのとっさの反応により彼の口の中へと消えていった。 「…ちょっと味が薄いな」 ペロリと舌なめずりするラグナス。 「それはいい。何の用だ」 二人は、やっと会話がかみ合った。 少しの後。 「…つまり、そういう訳だ」 ラグナスは注文のミートソースパスタを食べつつ、一通りの用件を話した。 「なるほどな」 この大陸とて、他と比べて平和とは言え、まるっきりではない。特に、端と端になるほど交流が無い為、些細な事で争いになり易いと言う基本的な幼稚さは、国として抜かりなく押さえている。 そんな両端に存在する両国が、最近水面下で争っていると言う。 水面下、と言うのはゲリラ的な、と言う意味だ。特に大きな力を持つ国同士でも無い為、近隣に表立って迷惑をかける事が出来ない。 そうなれば、逆に戦争を起こしている本人が狙われる側になりかねないからだ。 そんな程度の小国同士が、お互いのチンケなプライドの為にゲリラ戦で戦火を起こしている。 戦地となる場所の迷惑など顧みずに。いや、他の場所だからこそ、好き勝手にしているようだ。 ラグナスによると、それが最近この国の近くに及んでいると言うのだ。 「で、俺とお前で何だって?」 「ちゃんと聞けよ。つまり、俺とお前でそいつらを追っ払うって訳だ」 「この国にだって軍くらいある。お前が知っているって事は、国はとっくに知っているんだろ? 任せておけよ」 「と、言うか、その『国』からの依頼らしいんだが…」 ラグナスは、流石にそこだけは他に聞こえない様にこっそりと語る。 「マジか?」 「マジだ」 要は、ギルドに極秘で依頼が来たらしい。 言っちゃ何だが、俺が住むこの国も別に領土、国力共に大きい訳じゃない。 下手に軍を動かして、両国から睨まれたらヤダ。 だから、上手い具合に両国の軍を追っ払って欲しい。出来れば、両軍の自滅と言う形で。悪くても、国は関係ない人間の仕業で。と、言う事らしい。 「…えらく消極的な話だ」 「お偉方様ってのは色々あるんだろ」 「色々ね」 「で、依頼を受けたギルドの方から、俺とお前に白羽の矢が立ったって訳だ」 「白羽っつーか人身御供っつーか」 そう言いつつも、シェゾの口元は微かに吊り上る。 これこそが変人(※変態に非ず)たる所以かもしれないが、彼はそう言った人が嫌う様な『厄介事』が大好きなのだった。 「無論、雑魚じゃあるまいな」 「その点は安心してくれ。ゲリラ部隊っつっても一撃必殺のプロの群れだ」 「結構」 シェゾは、払いをラグナスに押し付けてから二人でギルドへと向かった。 ギルドの会議室。二人は、書記を勤めるブラックと、珍しく顔を出したギルドマスターの四人でテーブルを囲んでいた。 普段、マスターが表に出る事は少ない。今回はそれだけの事、と言う訳だ。 「まあ、あんた達は正式なメンバーではないんだが、いかんせんこんな仕事が出来るメンバーは他にいないんだ。報酬は国が保証するから、よろしく頼まれてくれんか?」 顎鬚も逞しく、がたいのいいマスターのオヤジ。 黒の眼帯がその迫力を増している。 これで角付きヘルメットでも被れば北欧のバイキングと言ったところだ。 確か、有名なところではハルバルと言う親子でバイキングをしていた男が居る。 「どう? シェゾ?」 ブラックが羽ペンを走らせながら聞いてきた。 「どうも何も、わざわざラグナスを説得してから俺を引っ張って来たんだ。イヤっつって帰してくれるとは思えないがね」 「がははは! まあ、その通りだ。お前さん、元からこう言うの好きだから大丈夫とは思ったが、一応な」 昼間っから巨大なタンブラーになみなみと注がれたビールをぐい、と飲むとマスターは笑ってそう言った。 「で、詳細は?」 シェゾが聞く。 「おう。ブラック、説明してやってくれ」 「あいよ」 どうやら、事はすんなり決まったようである。 |