魔導物語 どこにでもいっしょ 第六話 第六話 「きゃあああっ! 止めて停めてトメテッ! 高いってばあぁぁ!」 その絶叫と悶絶は空の上から響いてきた。 「…あら、アルルさん、どうやらジェットコースターに乗っていらっしゃるようですわ」 ウイッチが、絶叫響く真っ白な木製コースターの頂上を仰ぐ。 アルルが本気で出す大声は、あれだけ高い場所からでも良く響く。 「俺もコースター乗りたかったな…」 「あれ? さっきあんた、あたしと乗る? って聞いたら、恐がっていたじゃん」 ドラコがすかさず突っ込む。 「さっきはさっき。今は今」 ブラックがつん、とそっぽを向いた。 ラグナスがシェゾと分かれてからしばらくの後、彼ら一行は皆でお茶しようと言う事で探していたのだ。アルルとシェゾの二人を。 「おい、声が止まったぞ」 ラグナスが冷静に実況する。 「今、頂上ですわ。アルルさん、覚悟決められましたかしら?」 コースターは今、頂上で暫しの間静止している。 アルルにとっては、おそらく地獄の釜が開いた瞬間にでも感じたのではないだろうか。 「時々いるよねー。怖いの嫌いなくせに、ああいうの好きなの」 ブラックは、つい先程の自分の事も棚に上げて笑う。 「お、動いたぞ」 ラグナスが呟く。 そして、入れ替わりに空の上から力の抜ける絶叫が聞こえ始める。 「ふぎゃ〜〜〜〜!!」 その後数分間、魂の雄叫びが中空を右往左往する事となる。 「えと、この後、お二人に合流してお茶しますけど、その後はどうします?」 絶叫の最中、ウイッチが涼しげに言う。 「にゃ〜〜〜!」 「別に、ずっと団体行動しなくてもいいでしょ」 ブラックもあっさりと応えた。 「あら、そうですか?」 「乗りたいものは違うんだ。好きにやろうぜ」 ラグナスすらも気にとめない。 「いやあああ〜〜〜〜!」 「楽しもうよ。まだ時間はあるんだから。今はアルルと楽しんでいるんだし、丁度偶数。これでいいじゃん」 「はううぅぅぅ〜〜〜〜!」 「…そう、ですけど」 多少は賛同されるかと思っていた当てが外れ、やや肩を落とすウイッチ。 「夜は付き合わせるけどね」 「はにゃ〜〜〜〜〜!」 ぼそりと言ったブラックの最後の一声は、コースターからの悲鳴でかき消された。 「あ、足が…」 アルルは、情けない格好でシェゾにしがみ付きながらコースターから降りた。 「お、落ちる時ってボク、ダメかも。内臓がひっくり返りそうだったもん…」 「吐くなよ」 「そゆのじゃ…ないけど、とにかく…お腹の中がシェイクって感じ…あう」 シェゾの腕にかじりついたまま、アルルはそのまま引きずられるようにしてコースターを後にした。 ついでに、コースターではアルルの足にかじりついていたカーバンクルも、今はシェゾの背中で目を回している。 最も、カーバンクルの場合は動きよりも、暴れたアルルの足でボコ殴り状態だったから、と言うべきか。 「懲りたか?」 「でも、面白い…」 懲りてなかった。 腰が抜けかけて、半ばシェゾにしがみ付きながら降りてきたところへ、ラグナス達一行がやって来る。 「よう」 「遅いよ、シェゾ」 「そうですわ。もっと早く来てくだされば良かったのに」 「…イレギュラーだったんだ」 来る気が無かった、とまで言うと、約二名にいろいろ突っ込まれる危険があるのでそれ以上は言わない。 「では皆様。揃ったところでお茶にいたしましょう」 すかさずキキが仕切る。 この辺りの手並みの良さは、感服に値する。 「なあ、それはいいんだが、サタンはどうした?」 「…シェゾ、セットで居ないとなれば、大体分かる筈ですわ」 ウイッチが、つつ、と近づいて呟いた。 「…成長しろ。間王様よ」 シェゾは軽く溜息をつく。 「間?」 「それで十分だ」 真面目に言うシェゾに、ウイッチはふふ、と含み笑いした。 「あう…それより、のみもの…。ボク、すわりたい…」 シェゾの腰にしがみついたままのアルルが、ぼそりと囁いた。 八名を有する大所帯となると、お茶一つ飲むだけでもテーブルが二つほど占領される。 だが、幸いにしてここの施設はレストランなどの飲食関係も充実しており、閑散とはしていないにもかかわらず、全員で座る席を余裕で確保できた。 「ぷは! 生き返ったぁ!」 アルルがLLサイズの烏龍茶を飲んで深呼吸する。 「ねー、ドラコさん、あの観覧車って面白かったよね!」 「えー? 退屈じゃなかった? それよりさあ…」 チコとドラコがきゃっきゃと会話を弾ませている。 ネイティブアメリカン系のドレスで着飾ったチコと、チャイナ系の赤いスパッツのドラコは、傍から見ると年齢的な事もあり、特に遊園地が似合う。 はしゃぎながらパンフレットを見る二人は、何とも言えず微笑ましく見えていた。 そんな横で。 「ラグナス。アホはどこだ」 ちょい、とシェゾがラグナスを呼ぶ。 「いや…。最初に、恐らくだが、ルルーに拉致されてから、なんだろうが、少なくとも俺達は姿を見ていない。もしかしたら、アルルがそっちだからお前が見つけるか、とも思っていたんだがな」 「ちょっと俺も思ったんだが…気配も無い」 「そうか…」 「ま、サタンも、いつまでも筋肉の言い成りって事もないだろ」 「ああ…って、お前、せめて名前で呼べ名前で。筋肉って…」 「ふ…」 にやりと意地悪っぽく笑うシェゾ。そんな笑みすらもある意味で魅力的に見えるのは何故か。 男女を問わぬ色気とはこう言うものか、とラグナスは要らない感心を覚える。 二人は、少し離れた位置で立ち話を続けた。 「でだ、ラグナス。夜、付き合え」 「…もしかして、眠れないかもな」 ラグナスは、今夜を予想して諦めた様に笑う。 チコは、偶然そこだけを聞いた。 「…え?」 その大きな目を見開いて、チコは息を飲む。 「じゃ、夜な」 「ああ」 二人は、何気なく戻ってきた。 チコは慌てて知らん振りしてスカッシュを気管に流し込み、思いっきり咽た。 「……」 その後、皆は団体行動になった。 シェゾ達が歩くその後ろ。 チコはたまたま近寄って歩いていたシェゾとラグナスを見て神妙な顔をしている。 「どうしました?」 キキが、そんなチコに問い掛ける。 「あ、いえ! 何でもないです! しん…神官職も女人禁制とかって多いから、そういうのも珍しくないですし…」 「はい?」 「…ワスレテクダサイ」 チコは耳まで真っ赤にして言った。 キキは、はて? と言う顔でチコを見る。 チコの視線は、それでも二人に釘付けだった。 |