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魔導物語 どこにでもいっしょ 第二話



  第二話
 
「…っと言うわけで、サタンにチケットを沢山貰ったの」
「学習しろよ、あのオヤジは…」
 シェゾは色んな意味で呟く。
「でね、とりあえず家に入れてよ。でないと、カーくんの横線が増えるよ」
「ぐ!?」
 カーバンクルが冷や汗を流した。
 …案外非情なところあるよな。
 シェゾは、アルルの『女』と言う底恐ろしい部分を時々垣間見る。
「…分かった」
 元来、人は家に入れないのが信条の筈のシェゾ。
 なのにアルルはもう、そんなシェゾの家の構造や、どこに何があるかを結構把握するに至っていた。
 彼としては不本意ではあるが。
「お茶煎れるね。紅茶? コーヒー?」
 そう言って当り前の様に台所へ向かうアルル。茶器は愚か、葉や豆の場所すら当り前の様に知っているのだ。
「普通逆だろ…」
 俺はアルルの首根っこを掴んで居間に持っていく。
「んにゃ!」
 アルルはじたばたしたが、大人しくソファーに座った。
「じゃ、ボクミルクティーね」
「はいはい」
 暫くして、二人は茶を前にして問答を始める。
「で、来週の土曜日にするんだけど、シェゾは行くよね?」
「行かん」
「なんで?」
「用がある」
 アルルはシェゾをじーっと見る。
「何だよ」
「あからさまな嘘はよくないなぁ…」
 容疑者に詰め寄る刑事みたいなアルル。
「本当だ」
「なんでそんなぴったり予定があるのさ? シェゾってばとりあえず断る時の第一声がそれだもん。成長しなくっちゃ」
 成功すると言う事は嘘が上手くなると言う事で、それはアルルには問題な筈だ。
 が、彼女がそこまで考えて発言する筈もなかった。
「本当だ。少し離れた場所にある地下遺跡が、最近妙な活動をしているらしい。その原因調査と可能なら解決。それが仕事内容だ」
「…シェゾ、最近まっとうな仕事が多いね。カタギになる決心ついたの?」
「何時カタギになんかなるっつった。飯代稼ぎだ」
「でも、こう言う仕事選ぶじゃない」
「…厄介な仕事だから俺に回ってきただけだ」
 そう言ってシェゾは苦い顔で紅茶を飲む。照れ隠しに見えるのってボクだけかな?
「…それがホントでもさ」
「ん?」
「これは、置いていくから…。だから、来週土曜日の十一時、このチラシの場所の、正面入り口に、きっと、来てね。ボク、待っているからさ。ね…」
 アルルは、真剣な瞳でシェゾの瞳を見る。それは、願いと信頼を兼ね備えた瞳。
 そっと、テーブルにチケットとチラシを置いた。
「チケットが無駄にならなきゃいいがな」
「…そう思うんだったら、来てね」
 アルルはそういうとちょっと寂しげに立ち上がった。
「帰るか?」
「…ここに、居て欲しい?」
 甘える様な瞳で振り返るアルル。
「帰れ」
「…おじゃまさま…」
 アルルは、寂しさと非難の目をめいっぱい送りつつ、シェゾの家を後にした。
「ねー、カーくん。酷いよねー。『帰れ』だって。…どうせなら、『もう帰さない!』とか言ってぎゅーってハグハグしてくれる甲斐性くらいないのかな?」
「ぐぅ?」
 そこまで言うのはどうか? とカーバンクルが思ったかどうかは謎である。
 
 一人になったシェゾ。
「ふぅ…」
 あいつが帰った後はいつも気が抜ける。騒がしいからか?
 いや、寂し…くだらん。
 シェゾは考えるのをやめた。
 気を紛らわす為、テーブルに置かれたサタンランドとやら言う、ネーミングセンスゼロの遊園地のチラシを見てみる。
「ん? この…場所…」
「ぱお?」
 頭にお盆を載せてお茶のお替りを持って来たてのりぞうが、複雑な表情のシェゾを見て一声鳴いた。
 
 一週間が過ぎ、明日は土曜日となった。
「さーて、明日はいよいよ遊園地だね! 最初は何で遊ぼうかなーっと」
「わたくしはやっぱりこの、船のような乗り物に乗ってみたいですわ」
 ウイッチが言う。
 今は昼下がり。アルル達遊園地組一行は、街のカフェで明日の予定をきゃいきゃいと談義していた。
「俺はこの水に突っ込むって言う乗り物に興味があるな」
 実に嬉しそうなラグナス。普段が娯楽に縁の無い生活だけに素直に嬉しいのだろう。
「私はこの大きな観覧車がいいですわ。信じられない高さまであがるみたいですね」
 やはり嬉しそうなキキ。
「俺は、この椅子ごと動く活動写真みたいなのってのが興味あるね」
 ブラックも同じく楽しそうに言う。
「わたし、このぐるぐる回る乗り物って興味あります! だって、体がひっくり返るんだもん!」
 チコも当然うきうきしていた。
「この、バンジージャンプってさ、わざわざ落ちるのが面白いのかな?」
 飛ぶも落ちるも自在のドラコはそんな一発アトラクションに疑問を感じていた。
「アルルさん、ルルーさんもお誘いになられたんでしょう? 来られませんの?」
 ウイッチが、一人足りない事に疑問を投げかける。
 サタンはその日に会うと聞いているし、シェゾは言うまでも無くこの様な浮いた集会に来る筈が無い。
 だが、ルルーは呼べば来ないと言う事も無い筈なのだ。
「あのね、もう今日からサタンランドに行って、ホテル予約して泊り込みでサタンを待ち構えるってさ」
「用意周到ですわね…」
 成る程、と言うか、ああ、と呆れ顔のウイッチ。
「なあ、アルル」
 ラグナスが問う。
「ん? 何?」
「あの二人はいいとして、このままだと奇数になる。シェゾは大丈夫なのか?」
「うん」
 実にあっさりと言い切るアルル。
「ゼッタイ大丈夫。ん!」
 自信と共に、びしりと親指をサムズアップするアルル。
 それは、一点の曇りも無い笑顔だった。
「…そうだな」
 ラグナスも軽くサムズアップを返しつつ、あの果報者をうらやましく思った。
 
 同時刻。
「…成る程」
 シェゾは暗がりの中で確認した。
 そこは冷たい風が通り過ぎる地下洞窟。
 彼は闇の中で瞳を開けた。
 蝋燭の灯り一つ無い闇の中でも、彼の青い瞳はその存在感を失わない。
「厄介と言えば厄介な…」
 シェゾはきびすを返して歩き出した。
 調査は終わった。
 後は、どうするかだ。
「…まったく厄介だ…」
 シェゾはもう一度呟いて闇に消えた。
 
「…シェゾ、居ないねえ」
「ぐ」
 アルルはその日の夕方、一応シェゾの家へと足を運んでいた。
 会えたら、彼の家に泊り込んででも明日は引っ張っていこうと息巻いていたのだが、残念ながらそれは無駄なエネルギーの消費に終わる。
 てのりぞうすらも居ない。
 おそらく、てのりはシェゾに自由時間を与えられた、と言うところであろう。
 その代わりに家は強力な結界に守られている。
 『入りたくない』。そう思わせると言う、もっとも難儀な結界に。
「ほんと、厄介と言えば厄介な結界だね。別に家に入ってもおかしな事しないのに」
「ぐ?」
 近くで遊んでいたカーバンクルは、おかしなことってなに? みたいな顔でアルルを見た様な見ない様な気がした。
「仕方ないね。帰ろう、カーくん」
「ぐ!」
 アルルの肩口によちよちと登るカーバンクル。
「…まったく厄介だなぁ…」
 アルルはもう一度呟いて家路に着いた。
 
 
 

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