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魔導物語 闇に生きると言う事 第五話



  精霊の森  一日前
 
「闇の剣よ…」
 その声は、闇に怯え、闇を憎む者がなお、闇にすがるしか救いの方法の無い、哀れな羊のものだったか。
「……」
 救いを求める声は、無言へと変わる。
 そして、入れ替わりにシェゾの魂が救いを求めて叫ぶ。
 唐突に声は頭の中に響いてくる。
 『主よ…』
「黙れ」
 『主よ…』
「黙れ!」
 剣が、虚空へ消えた。
 
 
 
  街道  午後2時43分
 
 シェゾは、最近家に帰っていない。なぜなら、アルルは自分の足でシェゾの家にいったから。そして、使いのてのりゾウが、寂しそうにそう告げたから。
「はあ…」
 ラグナスと別れた後、普通の人ではなかなかたどり着けないシェゾの家にやっとのことで行きながらも、何も収穫のない足で帰路につく。その足はどうにも重い。
 茜色の空、遠くに飛ぶは何の鳥だろうか? いや、鳥ではない。鳥は、箒になど乗らないから。箒から荷物をぶら下げつつ、太陽に向かうようにして浮遊するその姿は。
「…ウイッチかぁ」
 今、特に会いたい相手でもない。当然ながらアルルはそのまま風景の一部のように見送るつもりだった。
 しかし、何かが気になる。
「……」
 モノを思って、そのまま胸にしまいこむのはアルルの得意とするところではない。
「ウイッチー!」
「あら?」
 空の上から、程なくして魔女は降りてきた。
「こんばんは。どうしましたの?」
 特に愛想が良い訳ではない。いつも通りの、挨拶してあげますわ、という挨拶。
「う、うん…。あのさ…」
「はっきりしない方はキライですわよ」
 ウイッチは知り合いだろうとそうでなかろうと、気分の乗らない時はまったく無愛想である。ストイックな性格は自分の自信ゆえか、それとも、何かの脅迫概念か。
「あ、あのね…」
 何とか話をつなげようとする。その時、ウイッチの持っている荷物に目がいった。
「…ウイッチ、ずいぶん食べ物買い込んだね。何日分?」
「あら、わたくし、一人で食べるとお思い? わたくしの小さな胃では半分以上腐らせてしまいますわ」
「…じゃ、なんで?」
 ウイッチは少し、蔑むような、面白がるような、いたずらな瞳でアルルを見つめる。
「それは、あなたにいちいち説明することではありませんわね。さて、重い荷物が箒を苦しめていますわ。わたくしはこれで失礼いたします」
「あ…」
 声をかけるひまもなく、ウイッチは箒に腰掛けて飛び上がる。
「ごきげんよう」
 ウイッチは、夕日に消えた。
「一人じゃ食べきれないってことは、誰か居るってことだよね。お客さん? なんでそんなつっけんどんになるの?」
 何で? とウイッチが消えた方向を仰ぎ見る。アルルの胸には、持ち前の好奇心が湧き出していた。
 
 
 

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