魔導物語 闇に生きると言う事 第三話 精霊の森 同時刻 そこには、二人の男が対峙していた。 それは言うなれば究極の対。光と闇の剣士。 「…シェゾ、お前、何かおかしいぞ?」 「いきなり現れて失礼なことを言う奴だ。弱いものをいじめて強くなるような奴に言われたくない」 「!…。人の力を奪うことで強くなる奴にも、言われたくない」 「悪いが俺は、奪うに値すると見極めた上の勝負で、合意の上に頂いているのでな」 「……」 それでも、男は退かない。 シェゾが、イライラして剣を抜く。 「で、俺の前に現れたと言うことは、茶を飲むためでもあるまい?」 「…お前、今のお前からはおかしな気を感じる。何か、とても危険な『気』だ」 シェゾの眉がわずかに上がる。 「で?」 「だが、出来るなら…。いや、災いとなるならば、お前は危険だ。斬る」 「それは、ラグナス。お前の力、俺に献上すると言う事か?」 「差し上げられるものならば、な」 ラグナスの鞘から、チン、と金属音が響く。 それが合図だった。 森が、揺れた。 風速のない風が森を通り抜け、動物達が反射的に飛び上がる。小さな川が、不規則な波紋を形作った。 「……」 無言で立つ男。それは、闇。 「まさか、な…」 うつぶせに倒れる光。外傷こそ少ないが、精神的に手ひどく打ちのめされていた。闇の剣で相手の物理的、魔力的な力を払い、こちらが闇の魔力で神経的なダメージを叩き込む戦い方はシェゾの得意とする戦法だ。特に剣による魔法打破を得意とするラグナスにとってお株を奪われたショックは大きい。 相手に肉体的ダメージより恐怖心を植え付ける戦いは、闇の専売特許なのだ。そして、その精神的に高度な戦いはシェゾの好むところでもあった。剣技に自信がない訳は無いが、力任せで叩き伏せる戦いをシェゾは好まない。 「…お前は、今のお前は、危険だ…」 シェゾは、無言で闇の剣をラグナスにかざす。それは相手の力を奪い去るための儀式。 力を、魔力を奪われた者は、別に死にはしないがその後一切の魔力の成長が無くなり、しばらくの間は強い無力感に襲われる。数ヶ月も経てば『普通の人』として復帰はするが、共通して無気力な者になると言う。 だが、それも加減による。容赦なく搾り取れば、相手の生気ごと奪うこともできるのだ。当然、『敵』の度合いが高いほどその確率は高くなる。 「ここまでか…」 無念さがラグナスに涙をにじませる。それは、勇者としてではなく、ライバルとしての純粋な悔しさ。 しかし。 「…?」 静けさに振り向くと、そこには頭を抱え、苦しむシェゾがいた。 「シェゾ…?」 「…違う! 俺は、人の力など…! 俺は、俺は…」 「お、お前…」 剣を地面に突き立て、シェゾは膝をついた。 「シェゾ!」 闇の魔導士の姿が消えた。 |