魔導物語 闇に生きると言う事 第二話 人魚の森 午後2時27分 「どしたの? ボーっとしちゃって」 黄金色の黄昏を粉々に打ち砕く、悪意の無い邪魔者。 この時振り向いたセリリの顔がこの世で一番怖かったと、後にアルルは後世に語る。 血の気が引いたアルルにいつもどおりの声。 「あ、アルルさん…。どうなさったんですか?」 その声はあくまでも優しい。しかし、どこか冷たい。しかも、どこか怖い。 「あ、うううん! あ、あの、ボク、ただ遊びに来ただけなの! お、お邪魔だったら帰るね…。あ、あはは…」 「いえ、そんなことありませんよ。どうしたんですか?」 セリリが怖かった、とは言えなかった。そんな事言ったらきっと、向こう一週間は夢見が悪くなるくらい泣かれてしまうだろう。それだけならまだしも、さらに攻撃される可能性もある。自信のない高性能さは、何よりも恐怖となる。 「あ、あのさぁ、…なんか、あった?」 「はい?」 「あ、あの、なんか、考えてなかった?」 「…あ、そうですね、そう言われると、そうなんでしょうね」 「へ?」 「…同じ魔導士の方にお話したほうが、いいんでしょうね」 セリリは、今日のシェゾのことを話した。黄昏た原因以外は。 「うーん、ボク、そんなシェゾって見たことないからなぁ…?」 「でも、何か思いつめていらっしゃることは、確かだと思うんです。ですから、あんなことを…」 シェゾの手の感覚が頬によみがえり、神速であっちの世界に突入するセリリ。 「あんな?」 「シェゾさんに触られた感触って、とっても心地よくって…。唇に触れたときなんて、もう…」 色っぽい溜息が、薄く小さな唇からもれる。 「…触られ…? …くちびるぅ…?」 「!!!」 今度はセリリの顔から血の気が引いた。後にセリリは、このときのアルルの顔がこの世で一番怖かったと後世に伝える。 |