第一話 Top 第三話


魔導物語 闇に生きると言う事 第二話



  人魚の森  午後2時27分
 
 
「どしたの? ボーっとしちゃって」
 黄金色の黄昏を粉々に打ち砕く、悪意の無い邪魔者。
 この時振り向いたセリリの顔がこの世で一番怖かったと、後にアルルは後世に語る。
 血の気が引いたアルルにいつもどおりの声。
「あ、アルルさん…。どうなさったんですか?」
 その声はあくまでも優しい。しかし、どこか冷たい。しかも、どこか怖い。
「あ、うううん! あ、あの、ボク、ただ遊びに来ただけなの! お、お邪魔だったら帰るね…。あ、あはは…」
「いえ、そんなことありませんよ。どうしたんですか?」
 セリリが怖かった、とは言えなかった。そんな事言ったらきっと、向こう一週間は夢見が悪くなるくらい泣かれてしまうだろう。それだけならまだしも、さらに攻撃される可能性もある。自信のない高性能さは、何よりも恐怖となる。
「あ、あのさぁ、…なんか、あった?」
「はい?」
「あ、あの、なんか、考えてなかった?」
「…あ、そうですね、そう言われると、そうなんでしょうね」
「へ?」
「…同じ魔導士の方にお話したほうが、いいんでしょうね」
 セリリは、今日のシェゾのことを話した。黄昏た原因以外は。
「うーん、ボク、そんなシェゾって見たことないからなぁ…?」
「でも、何か思いつめていらっしゃることは、確かだと思うんです。ですから、あんなことを…」
 シェゾの手の感覚が頬によみがえり、神速であっちの世界に突入するセリリ。
「あんな?」
「シェゾさんに触られた感触って、とっても心地よくって…。唇に触れたときなんて、もう…」
 色っぽい溜息が、薄く小さな唇からもれる。
「…触られ…? …くちびるぅ…?」
「!!!」
 今度はセリリの顔から血の気が引いた。後にセリリは、このときのアルルの顔がこの世で一番怖かったと後世に伝える。
 
 
 

第一話 Top 第三話