Top 第一話


魔導物語 約束 プロローグ
 
 
 
  プロローグ
 
「なあ、シェゾよ」
「あー?」
「何やってんだろな、俺達…」
「さあな」
 二人はベッドを並べて仲良く横になっていた。
 そこは療養所の病室。
 白い壁に木漏れ日の日差しが反射し、天上に不思議な模様を描いていた。
 それは水面の揺らぎを連想させ、それだけでも見る人の心を和ませる。
「シェゾー、ラグナスー! やっほー! 元気?」
 アルルが果物籠を持って病室に入ってきた。
「やあ、アルル」
 明るく迎えるラグナス。
「……」
 対照的に無言になるシェゾ。
「ねえ、二人とも具合はどう? もう歩ける?」
「ああ、俺はもう少しで回復さ。シェゾはも…」「ちょっと、リハビリしてくるわ」
「え…」
 無視されたような対応に戸惑うアルル。
「お、おい、シェゾ…」
「後でな」
 シェゾは松葉杖をついて外に行ってしまった。
「……」
 アルルは何故か声もかける事が出来ず、シェゾの背中を見詰めていた。
 悲しいような悔しいような、言葉では表せないような表情で。
「やれやれ」
 ラグナスは実に気まずい雰囲気の中に残された。
 
 療養所の屋上。風にはためく洗濯物の端でシェゾは空を見ていた。
 彼は気付いていただろうか。帰りがけ、屋上に見えるシェゾの後姿をずぅっと見詰めてから、ようやく帰っていったアルルに。彼女の背中が見て分かるほど寂しかった事に。
 そこへ、ラグナスも松葉杖をつきながら上がってきた。
「おい、シェゾ。あの態度は無いだろ?」
 その声は非難と、ある種のやっかみ。
「俺が、今あいつに会わせる顔なんてあるか」
 その声は自責と、ある種の開き直り。
「俺も誰も、気にしてないって言ってんのに…」
「お前が一番気にする筈だろ? お前を見捨てた俺を」


 
 

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