魔導物語 妬きもち焼きと世話焼きはどちらが苦労するか エピローグ エピローグ その五日後、シェゾとウイッチの体力回復を待ち、四人は揃って街に戻った。 アルルとラグナスは学校に。 ウイッチは成果物を持って一人でギルドへ向かった。 シェゾは疲れているから、と言い残して。 「…宇宙って、どんな感じでした?」 シェゾが入った店。そこで、カウンターに立っていたキキが事の経緯を聞いて、質問してきた。 「まあ、行きたくて行ったんじゃないからだろうが、あんまりいいもんじゃなかったぜ。実際…」 グラスを傾けながら、シェゾはこりごりだ、と語った。 「それにしても、今回は本当に奴らに助けられた。ラグナスが持ってきたあの増幅器たるメダル、そして、ウイッチが居なかったら、多分今も宇宙に浮かんでいたな」 「あなたと、ウイッチさんの力を合わせてやっとその…成層圏ですか、それを突破できる転移が出来た、と言う訳ですわね」 「正直、あれ、次元移動といい勝負だ。きつすぎる」 シェゾは素直に参った、と言う顔をする。 「これからどうします?」 「帰って寝…いや、ちっと精神修行が必要だ」 「ご殊勝ですね」 「勘違いするな。俺の為の修行だ」 シェゾは笑う。 実際、今回の事は、元はと言えば自分の未熟さが原因だ。 つまらない感情に流されすぎた己の。 それが結局自分に、ウイッチに危険をもたらしたのだ。 「……」 シェゾは、あの時握りしめたウイッチの手の感触を思い出す。 ウイッチは、微塵も疑う事無く自分に全てを託した。 そんなウイッチの瞳が、シェゾは忘れられない。 そしてもう一つ、塔に舞い戻った直後の自分を抱きかかえて、ひたすら泣いていたアルルの瞳も。 「…じゃな」 「もう、行かれます?」 「ああ」 シェゾは既にいつもの彼に戻っている。 「キキ」 「はい」 彼は、彼女に何かを頼んだ。 そしてコインを一枚置き、振り返りもせず去る。 キキは、そんなシェゾを見て何か応援したくなる。 いつもの彼だ、と笑う。 少しの後。 「あれ? シェゾは?」 「どうしましたの? ここに居る筈では…」 二人が帰ってきた。 「もう、帰られましたわ」 「えーーっ!?」 見事なハモリだった。 「久し振りに、ご飯でもって思ったのに…まだ、本調子じゃないんだから…」 「わたくしだって、最後まできちんとお見送りするのがパートナーですわ」 「もう終わったでしょ! 第一、シェゾん家まで行ってどうするの。普通逆でしょ! 送ってもらうならまだしも…」 「別に問題ないですわ。遅ければ、そのまま泊めていただくだけです」 「…泊め…」 今回のことでやや自信をつけているのか、割と大胆な事を言うウイッチ。 アルルは、思わず息をのんだ。 そして。 「…じ、実際許してくれるかどうかは分からないもんね!」 それだけ言うと、アルルは座ったばかりの席を立つ。 「アルルさん、どちらへ?」 「キミには関係ないの」 わざと部外者相手っぽく言う。 それは、ウイッチを煽るに充分だった。 「…そうですか。では、わたくしも…」 「ウイッチ、どこ行くの?」 「あなたには関係ありません」 つん、と歩き出すウイッチ。 アルルも負けじと歩き出す。 扉をくぐり、二人はまるでレールでも引いているかの様に同じ道を歩く。 「何でついてくるの?」 「こちらの科白ですわ」 二人はずかずかと歩き続ける。 行く先は、火を見るより明らか。 「あらあら…」 そんな二人を見送り、キキはクスリと笑う。 そして、少しだけ申し訳無さそうな顔で見送った。 シェゾから彼女は、二人が来たら嘘を教えろと言われた。 シェゾは家に戻っていない。 その足で、もう何処かへ行ってしまったのだ。 ヘタに居なくなったと言うと、動物的感で追いかけて来られかねない。 今は、これ以上彼女達に危険を押し付ける気は無かったから。 そして、一人で考えたかった。 そう考えた末の行動だった。 「…どなたが妬きもち焼きさんで、どなたが世話焼きさんかは微妙ですけど、皆さん、ご苦労なさっていますわ」 キキはグラスを洗いつつ、優しく笑いながら呟いた。 宇宙も、歴史的新事実も意味など無い。 そんな事より、妬きもち焼きと世話焼き、果たしてどちらが苦労するかは定かでないが、少なくともお互いに一筋縄ではいかない存在である事は確認できたその出来事だった。 二人の少女と、一人の男。 今歩く先はまったく別方向だったが、その目に映る太陽は同じだ。 空は晴れ、風はそれぞれを後押しするかの様に優しく吹く。 想う心有る限り、距離など無意味だから。 妬きもち焼きと世話焼きはどちらが苦労するか 完 |