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魔導物語 妬きもち焼きと世話焼きはどちらが苦労するか 第一話
 
 
 
 人は、一人で生きていける。
 自分で考えて、自分で行動して生きているのだから。
 だから、俺は人の行動に口を出すのは嫌いだ。
 どういう行動であれ、そいつの考えがあって行動している。
 それに、何で他人が口出しできる?
 そう、思って生きてきた…筈だ。
 それなのに…。
 
 
 
  第一話  もももショップ  午後2時13分
 
「アルルなら、ラグナスとどこかの塔に出掛けたみたいなのー」
 もももが、いつもながらの糸目で、そう言った。
 たまにはまともなものを喰おうと、飯を食いに街へ来ていたその日。
 大通りで俺は見てしまった。
 俺の視界ぎりぎりに映った、アルルとラグナスの後姿。
 大きな荷物と服装を見て、出かけるのだと直感する。
 俺は、何となくを装って、心当たりの商店でもももに聞いてみた。
 
 そして、返ってきた答がそれだった。
 
「…放浪の戦士だろ。なんでここらに居着いてやがる…」
「なんなのー?」
「気にするな」
 俺は大きく溜息をつく。
 冷やかしも嫌いだから、何か適当にそこらにあるものを買って出た。その間も、俺の頭の中は、二人がどこに行ったのかでいっぱいだったのだろう。
 だから、気が付いたら直径50センチの中華鍋を買っている自分が居た。
 阿呆な物を買った…。
 いや、阿呆は俺か。
 
「仕事はないか?」
 俺は気が付くと、その足でギルドに行っていた。
 何か、じっとしていると頭が落ち着かなかったのだろう。
 体を動かそう。
 そうすれば、そんな下らない事を気にしているヒマは無くなる、と思った。
「あんたが、自分から仕事を受けるとは珍しいねぇ」
 最初にカウンターに座っていた受付嬢を押しのけ、バイトのブラックキキーモラがシェゾをからかうみたいに言う。
 そして、彼女の視線は俺の背中に鎮座する中華鍋に集中していた。
 普段なら一応知り合いなんだから、俺だって何か言葉の一つでも返せる。のだが、今はあからさまにむすっとしてしまった。
 ブラックはカウンター越しに座ったままで、おや?、と言う顔で俺を覗き込む。
「…とにかく、何かやりがいのあるやつをくれ。報酬はどうでもいい」
「それも珍しいね。普通、危険度と報酬は比例するもんだよ?」
「そんな事はどうでもいいさ。とにかく、安くても高くても、手ごたえのあるヤツだ。あるか?」
 俺は、何故かそんな自分の声もまるでどこか遠いところで喋られているような、そんな気がした。
 何なんだ? この虚脱感は…。
「ま、あんたのレベルなら、いくらでもあるよ。それに、難しいのが丁度溜まってたから困っていたんだ。そうだねぇ…」
 俺は、ブラックにいくつかの仕事の説明を受けた。
「そんなもんつまらん。もっと難しいやつだ」
「そう? これもいいけど…あ、こいつは、もう入っているから…他には…」
 パラパラと帳面をめくるブラック。
 そして彼女の手が止まり、これかな? と言う顔をした時、思わぬ展開になる。
「これ、よろしいんではありませんこと?」
 俺は、突然の声に少なからず驚いた。
 その声と、それから後ろに人がいる事にまったく気付かなかった俺自身に。
「ウイッチ…」
「どうです?」
 驚く俺をよそに、ウイッチは自分の意見への賛同を求めている。
 俺は、それを見てみた。
「…天空の迷宮『バブ・イル』探索。目的は、遺跡のレリーフの模写と、星座版の発見及び、持ち帰り、か…」
 バブ・イル。この町からかなりの南に位置する古代遺跡だ。
 過去の遺物にしては高度な建造技術が使われている事で知られている。
「報酬もこれなら申し分無いのではありませんこと?」
「そうだね。危険な代わりに、こいつは高いよ」
 当然だが、ギルドの仕事は別に宝捜しばかりではない。学院などからの、遺跡の純粋な探求や発掘を目的にする仕事も意外に多い。
 宝探し等の利が絡むと、裏で取引したりして、ギルドを仲介しない輩もいるのだ。
 無論、そういう場合は一切の保険は無いが。
 そして、発掘や調査と言う仕事は大抵は予算ぎりぎりの安仕事が多いが、時々学者のお偉いが依頼する仕事もある。当然そういう奴がアウトローに頼む仕事は危険度が高い。
 しかし、比例して報酬も高い。でなければ、怪物相手にひるまない俺達のような奴の関心を引くのは難しいからだ。報酬は、金だったり発掘品の一部だったり、または次回の仕事と言う堅実なものまで様々だ。
「そこは場所柄、割とやっかいなモンスターが多いんだよね。ゴースト系、魔物系が多いから、やりがいはあるんじゃない? ただ、一人だと相当きついと思うよ」
「…かまわないさ」
 モノを考える暇がないくらいのことをしたかった。危険度など、何の意味がある。
「そうですわね。私達二人で行きますもの。平気ですわ」
 ウイッチがころころした声で言う。
「は?」
 俺は、彼女が何を言っているのか理解できなかった。
「わたくしもお仕事を探していましたの」
「…ウイッチ。俺の場合、今回は報酬目当てじゃない」
「と、言う事はあなたも修行ですわね」
「そう言える。だから、割に合う様な行動はとらんぞ」
「尚結構ですわよ。わたくしも、一人前の魔女になる為の修行としてですもの。報酬は二の次ですわ」
「……」
「おばあちゃんから、少しきついくらいの修行が一番身になると聞きまして、それで、こういった内容のモノを探していましたの。それに、わたくし一人では正直お仕事をやるわけにはいかない、と先程ブラックさんに言われてまして…。シェゾが来て下さって、助かりましたわ」
「ギルドともあろう組織が、ちびっこに仕事頼めるわけないでしょ」
「ちびっこではありませんわ!」
 二人が漫才みたいな言い合いをしている。
「……」
「お嫌?」
 ふと、対象が俺に戻ってきた。
 たった今までの自信に溢れた顔が嘘の様におとなしい顔のウイッチ。
「…好きにするさ」
 何か、今の俺は何に対しても無気力だった。
 そして、何か知らないがウイッチには気力が溢れてきたみたいだった。
 俺は、中華鍋を手土産代わりにブラックに置いていくと、ウイッチと二人でギルドを後にした。
「…麻婆豆腐でも作って、持っていくかね?」
 ブラックは、貰ってもやや困ってしまう土産を見て、笑った。
 
 

 

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