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魔導物語  精霊光臨祭前夜 Epilogue
 
 
 
  Epilogue

「ねぇ、シェゾ」
 追いかけっこに疲れた二人とシェゾは、出店の喫茶店で茶を楽しんでいた。
 通りには、精霊光臨祭が終わった後のグランドフィナーレパレードが、最後の打ち上げ花火とばかりに盛大に行われている。
「ん?」
「シェゾのお師匠様さぁ」
「師匠とか言うな」
「でも、面倒見て頂いたのでしょう? 義を欠いてはいけませんわ」
 アイスティーで喉を潤しつつ、ウイッチがめっと釘を刺す。
「…面倒っつーか、奴の場合は遊んでるだけの事が多いんだがな…」
「そなの?」
「そうなんだよ」
「でさ、どうしてルーンさんって、この街の為にそこまでしたの? 何か縁でもあったの?」
「…そうだな、なんでか、ね…」
 通りの喧噪を眺めながら呟く。
 シェゾは知っていた。
 今視界の先、通りの反対側にある小さなカフェテラスに一人、よく知った遊び人が座り、そして楽しげにパレードを見ながら茶を飲んでいる事を。

 あのやろ、まだちゃっかり居るじゃねぇか。

 今より昔の話。
「なんで俺がそんな事するんだよ。死んだ奴に命令される気なんか無い」
 ルーンを倒し、闇の魔導士の名を継いだシェゾは、もう会うまいと思っていた男に会う。
 ある日、不意に現れた男。
 肉体を失い、霊体となったルーンは、まるで久しぶりに出会った友の様な口調で強引な頼み事を押しつけてきた。
『君の為です。それに、これを放っておくと闇の魔導士としての沽券に係わりますよ。
「闇の魔導士にそんなもんあるか」
『あるのです。闇の魔導士は闇の支配者。決して外道と同列になってはいけません。君もそれは嫌でしょう? それに、この事はボランティアでも何でもなく、君の力の成長に、強くなる為に役立つ事ですよ。マジで。
「マジとか言うな。胡散臭い」
『やる気になりました?
「……」
『それに、本当は私がこの後もやる予定だったのですが、君が私を倒してしまったのだから引き継ぎを行って当然の事。人だろうが魔だろうが、義を欠いてはいけませんよ。
「…………」
『では、よろしくお願いします。次のチャンスは…十年後の精霊光臨祭です。
「十年後?」
『正確には三年前の祭から、あと十年後です。十三年に一度の祭なんですよ。精霊光臨祭は。
「…十年後に出来なかったら?」
『もう十三年後ですね。それで駄目なら更に十三年後。それでも駄目なら、更に十三年後です。それでも駄目なら、兎に角十三年周期で頑張ってください。
「死んじまうっつーの」
『あなたはもう、そんな細かい心配はしなくていいのですよ? あなたが闇魔導士である限り。
「………………」
 シェゾは苦虫をダースで噛み潰した顔でルーンを睨む。
『では、詳細は後ほどお知らせしますよ。
「…これ、マジ?」
『おおマジです。
 ルーンは満足げに微笑み、振り返りながら消えようとした。
「待て」
 シェゾは思い出した様に引き留める。
 ルーンは何か? と振り向く。
「何でその街にこだわる? そもそもお前自身がその街に、何か借りでもあるのか?」
『そうですねぇ…。まぁ、強いて言うなら…。

「ねぇ、どうしてなの?」
「シェゾ、教えてくださいませ」
「だんまりよくなーい」
「ですわー」
 猫がにゃあにゃあと鳴いている。
「……」

 シェゾはルーンの言葉を思い出す。
『私、好きなんですよ。
「何がだよ」
 ルーンは好きだったのだ。
 ライラント以前、ここがまだフロントだった頃に行われていた数々の祭。
 それが好きだった。
 毎年の様に遊びに行っていた程に。
『ただ、祭が好きなんです。祭を楽しむ人の姿、笑顔が。祭の熱気が。だから、それを復活させるには丁度いい機会だと思いましてね。

 まったく…。
 シェゾはそっと笑い、仮装行列に見え隠れする彼を見て呟く。
「嫌いじゃないのさ。人が」
「え?」
「はい?」
 その蒼い瞳に吸い込まれそうになりながらも、不思議そうな表情でシェゾの顔をのぞき込む二人。
 そんな三人が居る通りの反対側。
「闇の魔導士様だぞぉ〜!」
 ガーゴイルのマスクを被った闇魔導士の仮装が前を通り過ぎる。
『祭はいいですねぇ。
 ルーンはそれを眺め、楽しそうに笑っていた。


  精霊光臨祭前夜 完





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