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魔導物語 さくらよさくら プロローグ



  プロローグ

 例年と比べてその春はやや暖かい日が多かった。
 そのせいか梅の花が咲く頃になると、既に桜の花も一部ほころびはじめている。
 艶やかな桃色の花びらと、控えめな桜の花びらが美しい二色のグラデーションを森に映し出す。
 これから先、桜が本格的に咲き出せばその春色のグラデーションはいっそう鮮やかに森を映し出すだろう。
 森は喜んでいた。
 桜の咲く季節も喜ばしいのは無論だが、この季節は特に美しいのだ。

 あの艶やかな声が。

 あの歌声が。

 あの微笑みが。

 木々は彼女の来訪を待ち望むかの様に風に枝を震わせる。
 それはまるで花を一時でもはやく咲かせたいと待ち望んでいるかの様だった。
 桜の花が森を埋める頃、彼女はその歌声を聞かせてくれるのだ。
 早く咲いて。
 早く森を桜で埋めて。
 精霊達すらも、桜の木々のがんばりを応援している。
 美しく、それ故に過ぎる時は残酷な程に悲しい。
 そんな愛おしくも狂おしい程に切ない季節は、もうそこまで近づいていた。

 さくらよさくら。

 その目映きほどに切なく美しい桜色と、儚く、優しき、そして罪なる美の歌声よ。





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