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魔導物語 少年の色々な意味で危険な一日 エピローグ



「ねーねー、聞いている?」
 アルルが枕元できゃんきゃんと話し続けている。
「聞いているよ…。だから、ウイッシュが魔法薬生成はウイッチに任せて、自分はウイッチの姿となり、黒幕を追ったって言うんだろ」
 シェゾの声はいささか疲れていた。
 無理もない。
 ヴァンパイア化したうえでとは言え己の潜在能力を遠慮無く引き出して使った上、強引に体内のヴァンパイア化した細胞を浄化、更に疲れ切った体でアレイアードを放った後なのだから。
 気絶する様に眠り続けた事四日。
 いつの間にか運び込まれていた自宅のベッドで、シェゾはアルルから事の顛末を聞かされていた。
「そうそう、で、ウイッシュさんはあらかじめ魔女の人達をこっそり配置して決戦に備える。それから肝心のウイッチは、ボクが薬を持ち帰ってリリーナに連れ去られた後、残された薬を魔女さんに取ってきて貰って、それでアンチヴァンパイア薬を作ったんだって。流石だよねー」
「…お前は大丈夫なのか?」
「ん?」
「俺が噛んだだろうが。あの後、浄化はしたはずだがな」
「こうしてぴんぴんしてるもん」
「そうだな…」
「そうそう、ほら、首筋だって傷一つなにゃっ!」
 ぐい、と服を引っ張り首筋をむき出したアルルの後頭部に何かがヒットした。
「はしたないですわ」
 頭を押さえながら振り向いた先。
 そこには、箒を持って仁王立ちするウイッチが居た。
「ウイッチ…い、痛い…」
「痛い様にはたきました」
「そうじゃなく…シェ、シェゾもどうして言ってくれないのさぁ!」
「いや、口をこう、しーってしたから」
「そんなの従わなくていいっ!」
「さて、シェゾ、今日は焼きたてのパンを持ってきましたわ。自信作ですの。お昼に頂きましょう。ベーコンに豆のスープ、新じゃがのポテトサラダ等もちゃんと持参していますわ」
「ちょっと待った! ボクだっておいしいチーズのサンドイッチ持ってきているの! シェゾが大好きな深炒りローストのコーヒー豆もあるもんね!」
「あら、わたくしだってセイロンティー持ってきましたわ。滋養強壮のお薬きゃん!」
 今度はウイッチの後頭部にチョップが落ちる。
「え?」
 後ろを見ると、そこにはウイッシュが立っていた。
「あ」
「いつまで待たせるの」
「ご、ごめんなさい!」
「さぁ、台所に行ってお昼の用意をお願いします。私はシェゾとお話がありますから。
「アルルさん、よろしくお願いしますわ」
 ウイッチはアルルを見てさぁ、と促す。
「あなたもです」
「はい…」
「用意してきまーす」
 アルルとウイッチは台所へと向かっていった。
 部屋には二人きりとなり、静寂の空気が流れる。
 ウイッシュは枕の隣に腰を下ろすと、シェゾの頭をそっと撫でる。
「子供か」
「…本当に、ありがとう」
 ウイッシュはその柔らかな手でシェゾの頭、頬、首筋を撫ぜ続ける。
「長を辞めようと思っていたわ。いえ、一族から離れようとも…でもね、あの子が言ってくれたの。責任を取りたいのなら、どうでも仇を取るべきだって。嬉しかった。あの子も、強くなっている。それは、あなたの影響もあるのね」
「知らん」
「改めて、お礼をしなくちゃ」
「魔導力よこせ」
「私の力なんかじゃ、もうおやつにもならないわよ」
「じゃ何だ?」
「魔女の里に伝わる魔法薬、好きなときに好きな物をあげる。これは自分で言うのも何だけど、そうとう素敵な報酬よ。それから…」
 ウイッシュは、そっと頭を下げてシェゾに唇を重ねた。
「いつでも来て」
「お前、確か実年齢は…」
「あら、それを言うならあなたよりずっと年下よ」
「まぁな」
「ん…」
 もう一度唇を深く、長く重ねる。
「シェゾー、ごは…」
「シェゾ、お昼が…」
 勢いよく入って来た二人が時を止める。
「あら」
 ウイッシュは別段驚く風もなくシェゾに振り返り、いたずらっぽく微笑んだ。
「……」
 やっと体調が治りかけたばかりだ。
 だが、今日は今までで一番大変な日にになりそうだ。
 シェゾは色々な意味で危険な一日になるであろう今日を呪いながら、なにやらわめいている二人を尻目にそっと瞳を閉じた。

 日の光が瞼にまぶしい。
 今までは別に気にした事もなかったが、こうしてみるとなかなか悪くない感覚だ。
「少し寝るぞ」
 シェゾは燦々と降り注ぐ陽の光の中、静かな寝息を立て始めていた。


  少年の色々な意味で危険な一日 完



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