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魔導物語 pluckily potion プロローグ
 
 
 
  prologue easy lecture
 
 クスリと言うモノは、一見科学、化学(バケガク)の分野と思われがちです。
 しかしそれは、その調合の工程が論理的、物理的であると言うだけであって、そもそも、材料自体が化学では造り得ない、特殊なものですわ。
 ですから、その材料を集めると言う基本自体が一般では無理ですし、それ以前にそういう方々には材料が『心』を開いてくださいません。
 だからこそ、わたくし達のような魔導士が薬作りに長けているのは当然なのです。その中でも私達は、それに特に秀でた一族です。
 神秘のコケ、マナの結晶、妖精の羽、水水晶の水、砂漠のバラ…。高山の霊的力に育まれた植物、動物の角、骨。そのどれも、存在自体が奇跡の、神秘の妙薬と言えますわ。
 そこまで言って、ウイッチは咳払いした。
「…そんな神秘的な材料を使って更なる神秘の薬を作る。こんな楽しく、誇らしげな仕事、他には在りませんわよ。これは正にわたくしの誇りですわ」
 ウイッチは力説する。
「成る程ね」
 乳鉢の薬草を磨り潰しながらのシェゾ。
 俺は、とある事件で口に出すのも憚るような目に遭ってしまった。そんな時、俺を助けてくれたのがウイッチとアルルだった。
 そして、アルルへの礼は済んだ。今度は、ウイッチの番、と言う訳だ。
 それで、望みを聞いたら薬作りを手伝って欲しいと言う。
「礼はきっちりしたいからな。何日かかっても最後まで手伝うぜ」
 そんな俺の言葉に、ウイッチは満面の笑みで喜んだ。
 そのとき、工房の奥で何かが沸き立つ音。
「あ! 坩堝が溢れそうですわ!」
 ウイッチは大慌てで奥に走って行った。
「……」
 シェゾは、そんなあわてん坊な少女の笑顔は嫌いじゃなかった。
 そう、嫌いじゃない。
 と、言うか、あまり女の子の笑みが嫌いだと思った事は実は無いのだが。
 節操の無い自分を認識し、戻ってきたウイッチの笑顔を見たシェゾは何となく苦笑してしまった。
「?」
 ウイッチはそんなシェゾを見て、再び愛想よく微笑んだ。
 
 
 
 

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