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魔導物語 IZA-SENJOU-E! エピローグ



 エピローグ
 
 凄惨な光景となった丘の上に、二人の男が立っていた。
「…血は、流したくなかったが…」
「そういうのを綺麗事って言うんだぜ」
 シェゾはばかばかしい、と呟く。
「…そう、なんだよな…」
 ラグナスはふう、と息を深く吐いて空を見上げた。
「なぁ、あの悪魔だが、なんであんな所に現れた? なんであんな事言った? 初めてみたぞ、あんな主張する奴。お前が仕込んだんだろ?」
 しかもけっこう強かったし、とラグナスは軽く火傷した腕を見て言う。
 ラグナスは、丁度返り討ちにあった直後にシェゾから軽く経緯を聞き、その後は自滅を待って今に至る。
 その行為に納得したのは、そもそもの目的に合致させる為には彼の取った行動に合わせる他に無かったからである。
 一段落付き、二人はようやく周囲の落ち着きを確認しつつあった。
「奴らの部隊に潜り込んでから、ちょいと抜け出して奴に会ってきた。力貸せってな」
「…サタン、か? よくあいつが力を貸したな」
「たまたまだが、途中でいい物見つけてな。それを言ったら快諾してくれた。だから、奴の配下の上級悪魔を一人貸してくれたのさ」
「そして、一芝居、か。何とか読めたから巧い事出来たが、最初は焦ったぞ。もしかして、本気でお前と闘って、そのうえそいつも相手にするかと思った」
 ラグナスは宙を仰いだままで呟く。
「で、何を見つけたんだ?」
「物をくれてやったんじゃない」
 そういうと、シェゾは懐から人差し指程の大きさもある象牙色の牙を取り出し、ラグナスに投げた。
「? 何だ? 狼、か? ヤケにでっかいぞ」
「…そいつと、サタンは知り合いだったらしい。最後を看取ってくれて感謝する、とよ。俺からそいつの牙の気配を感じて、それで知ったそうだ。どうやら、最後だったってのに行けなかったのを悔やんでいるようだった」
「……」
 けだるそうな表情で同じく宙を見つめるシェゾ。
「そうか」
 ラグナスはそんなシェゾを見て小さく笑う。
 牙を放ると、シェゾはその軌跡も見ずに手に納める。
「にしても、幸運が重なったから良かったがこの国の考えは甘すぎる。正直、途中で投げようかと何度も思ったぜ」
「投げるかどうかはともかく、俺も同感だったよ」
 暫くして、その大地に生きている者は一人も居なくなった。
 凄惨にえぐられた大地と、幾ばくかの犠牲者を傷跡と残して。
 二人が行っているのは遊びではない。
 むしろ、悪魔を表に出して生きている者を残す方が難しいのだ。
 犠牲者が数える程で済んだのはそれこそ奇跡だろう。
 
「…暫く、こういう仕事は御免だな、シェゾ」
「っつーか、もう受けねぇよ」
「…そうだな」
 二人はかすかに笑った。
 少し前に止んだ雨は汚れと一緒に、何かのささくれを流してくれた気がする。
 
 茜さす雨上がりの空、雲が様々な光を反射して、鮮やかに色を紡ぐ。
 紫や桃色、黄金色に雲が染まり、様々な色が視界を覆っていた。
 
 そうか、空も、これだけの色を持っていたんだな…。
 
 シェゾは空を飽きる事無く眺めている。
 ラグナスもそれに付き合っていたが、ふたりは同じタイミングで一言呟いた。
「…腹減った」
 それは、二人が戦士から『人』に戻り、街に帰るきっかけとなった。
 街へと足早に向かう二人。
 今二人が考えているのは、今回の回想でも依頼主への文句でもない。
 
 何を食おうか、何を飲もうか。
 
 ただそれだけだった。
 
 
  IZA-SENJOU-E! 完


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