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魔導物語 どこにでもいっしょ エピローグ



  エピローグ
 
 十数分後。
 
「あれ? シェゾ! やっぱりシェゾだ!」
「なんでここに来るよ、お前…」
 こことは、サタンランドの中心たるサタンキャッスル頂上、VIP専用展望台である。
 シェゾはそこに一人、青空を見上げつつ、備え付けのベンチでぼーっとしていた。
 少なくとも外見は。
「ボク、チケットあるから入れるもん。でもどうして? ボク、さすがに今日は諦めていたんだよ」
「言っておくが、俺はここから動けないぞ」
「やっぱり、サタンと何かやっている最中?」
「ああ。閉園までは動かない。だから、他の連中と遊べ」
「わかった」
 そう言いつつ、アルルは隣に座る。
「……」
「ねぇ、飲み物買ってくるけど何がいい? ブランチは何がいい?」
「ぐー」
「あ、カーくん他の人と一緒に遊んできていいよ。ボク、ここにいるから」
「ぐー」
「ん。じゃぁ、連れて行ってあげる。後は一人で遊んでね」
「ぐー!」
「……」
 彼が二人の会話に口を挟む余地はない。
 十分後。
 アルルは、両手にドリンクとスナックとブランチをいっぱいに抱えて戻ってくる。
「はい。喉乾くでしょ?」
「…ああ」
 実際喉は渇いていた。
「で、何しているの?」
「細かい話は省くが、要はここのサタンランドを閉園まで固定している最中だ」
「固定?」
「奴と、ラグナスが別の場所で踏ん張っている。そして俺は、作用点となるここで力を安定させているって訳だ」
「…ふぅん、とにかく、大変なんだね」
「そういう事だ」
「じゃ、腹ごしらえはやっぱり必要だね」
「そういう事だ…」
「こういう所で、何にもしないでまったりするのって、贅沢かもね」
 アルルはシェゾの横、紅茶を飲みながら何とは無しに彼に寄り添い、一緒に空を見上げた。
「そうかもな…」
 お互いが隣にいる。
 それは不思議な安堵感を生む。
 適度な満腹感。
 心地よい風。
 柔らかな陽差し。
 そしてシェゾの役目が、そもそも彼にどうこうしろと言うのではなく、触媒的役割であった事も幸いする。彼は居るだけでいいのだ。
 つまり、寝ようと遊ぼうと、ここにいる限り問題はない。
 これが良くなかった。
 
「…ほぉ…。我々は山の様な大きさのぷよ相手に手加減しながらの難しい戦闘をこなしていたと言うのに…」
「いくら何でも、非道いぜ。シェゾ…」
 夕焼けも過ぎ、濃い藍色に染まりはじめた夜空。
 淡いイルミネーションでその姿を光らせるサタンキャッスル。
 そこの展望台。
 何時の間にやら、仲良く寝息をたてる二人が居たその世界。
 サタンランドが地響きを立て始める。
「…そろそろ、『起きて』もらうか」
「…まったく同感だ」
 
「あら、花火ですわ!」
「おー! 綺麗だねぇ!」
「なんか、爆発が尋常じゃない感じでいいね!」
「…あれ、花火ですか?」
 サタンランドの最後の締め。
 ランドの外に集まっていた皆は、その夜空に巨大、と言うか巨大すぎる打ち上げ花火を見たと言う。
 
 
 
  どこにでもいっしょ 完


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