後編 Top


魔導物語 Call me エピローグ



 エピローグ

「ドラコ、具合はどう?」
 ドラコの家。
 アルルは山盛りの果物を持って見舞いに来ていた。
 しかし、寝ている筈の彼女の部屋のドアを開くと、そこには寂しく体温を失ったベッドがあるだけ。
「あれ?」
 テーブルにお見舞いを置き、アルルは外に出る。
 ふと、家の後ろから何かの鳴き声が聞こえる。
 アルルは裏庭に向かった。
「あはは、すっかり元気じゃん! もうおかしなモンスター食ったりするなよ」
 裏庭には、やや大きめのパジャマを着たドラコが、子象ほどの大きさの毛のある竜と戯れていた。
「ドラコ」
 アルルの声にドラコが振り向く。
「や、アルル。どったの?」
「どったの? じゃなくて、ボク、キミのお見舞いに来たの。もういいの? 傷、残ったりしない? 感染症とかは?」
 パジャマから除く包帯をしげしげと眺めたり、腕をまくってパジャマの奥をのぞき込みながら問うアルル。
 ドラコはくすぐったそうに身を捩り、竜はきょとんとした顔で二人を見ている。
「あはは、大丈夫だって! あたしら、人より快復力あるし、それに今回大変だったのはこいつだからね」
 ドラコは両手で抱える程の大きさもある竜の頭を抱きしめて言った。
「その子も、大丈夫なの?」
「ばっちり。解毒は完璧だよ」
 今回の冒険。
 それはドラコからの申し入れによる物だった。
 ドラコの親友であるドラゴンが毒性のあるモンスターをかじってしまい、非常に遅効性ではあるが毒素による全身壊死を起こしていた。
 ドラコは、その毒素を浄化する効果があるアイテム、竜脳を手に入れたいが為にアルルに声をかけ、冒険を行っていたのだ。
 アルルは、それのついでで、自分の為の冒険を行っていた。
「ホント、感謝感激だよ」
 ドラコは自分の傷など物の数ではない、とドラゴンに頬をすり寄せる。
「ありがとね、アルル」
 ドラコはアルルにも抱きつき、感謝を体で表す。
「…ボクじゃないよ」
 アルルはくすぐったそうに微笑む。
 シェゾ、こういう意味だったんだね。

 ボクが困った時。

 それって、決してボクだけが困った時じゃなくてもいいんだね。
 ボクが何かに困った時。
 本当に助けが必要な時。
 それって、こういう事なんだね…。
 アルルは、命を取り留めた友人の友達。
 そして、こうして元気に笑ってくれる友人が、今も元気で自分の前にいてくれる事を、心から喜んだ。

 ありがとう。

 アルルは心の中をその言葉で一杯にする。
 今、自分の前で笑ってくれる友人達に対して。
 そして、自分を呼べと言ってくれたあの人に対して。

 風が、二人の笑い声を空に運んだ。
 この声、彼の元へ届けと言わんばかりに。


 call me 完

 

後編 Top