魔導物語 当たるも八卦、当たらぬも八卦 エピローグ エピローグ 轟音が消えてから少しの後。 とりあえず、一日の予定はアルルにとって大幅に狂ったが、彼と逢う事は出来た。 まずは格好をなんとかしなければ、とアルルはシェゾを家に呼ぶ。 「シェゾ、とにかく一度お風呂入って。汚れを落とさないとね」 「そうだな」 実際、お湯をかぶるとまず髪の間から土が流れて茶色の筋を作った。 お湯につかると、あちこちがひりひりと痛む。 「思ったより、痛めているな…」 シェゾは半日を振り返り、やれやれ、と風呂桶に顔までつかった。 風呂から上がり、替えの服を着る。 彼女の家に何故シェゾの替えがあるかはとりあえずおいておこう。 「今日はさ、ホントならウインドウショッピングか、湖にでも行こうと思っていたんだけどなぁ…」 アルルは、あがったシェゾにレモングラスティーを出してから机にひじを付いてはぁ、と溜息をつく。 「仕方ないさ。俺も、めんどくさがらずに一日でも早く来れば良かった…。まさか、そこまで貴重な糸だったなんてな…」 机の反対側に座り、申し訳なさそうに肘を付くシェゾ。 「ううん。ただ、どうせなら、絶対に他じゃ手に入らないものをって、思ったの。ボクも、悪かったの。そこまでしないと手に入らないなんて思わなかったの」 アルルも半ばあきらめがついた、とばかりに微笑む。 「…俺にとっては、お前が編んでくれただけで充分一品ものだ」 涼やかな香りのティーを飲み、何の気は無しに呟くシェゾ。 そんな彼の言葉は、アルルの心から悲しみを優しく、確実にかき消す。 「…キミ、ホントに気まぐれに優しいよね」 「ん?」 「何でもないよ。それより、お夕飯の材料、買いに行こうよ!」 「ああ。荷物持ちくらい、手伝うぜ」 「あのね、キミの分もだよ」 「ん?」 と、夕飯と聞いてひょっこりと出てくる黄色い生物。 「ぐー!」 「あ、カーくんはちょっとお留守番してて」 「ぐぅ〜〜!」 イヤイヤするカーバンクル。 「まぁまぁ、代わりに甘栗買ってきてあげるからさ」 「ぐ!」 あっさり快諾するカーバンクル。 そんなやりとりを見て、シェゾは何となく笑いたくなった。 「ん? 何?」 くりくりとした瞳で彼を見るアルル。 「…いや」 「ふーん。ま、いいや。それじゃ、行こうよ」 そう言って、アルルは先程のマフラーを取り出す。 「これは…」 「いいの。セーターダメになったんだもん。ボリューム減っちゃうし、貰い物みたいで悪いんだけど、代わりにこれ貰って」 「そうだな」 「じゃ…」 そういうと、アルルはシェゾの首にさっさとそれを巻いてしまう。 「…長いな」 巻いて尚、そのマフラーは布を余らせている。 「ん、そーしてね…」 そして、アルルは残りの布を自分の首に巻く。 「完成」 「…この格好で、街歩くのか?」 今や、二人は思いっきりペアマフラーで繋がっている。直接的だけにペアルックよりも恥ずかしい。しかも、元々はそれ用ではないから、身長差も手伝い、何もせずとも寄り添う形となる。 一日悩んでやっとペアルックの覚悟を決めたと言うのに、あっさりとそれ以上の試練が待っていたとは夢にも思わない彼だった。 「モチロン。そんじゃ、行こうか?」 当然の様に腕を組んで歩き出すアルル。 「了解…」 二人は、肌寒い秋の風舞う外に出掛ける。 しかし、二人を寄り添わせるマフラーと、しっかりと組まれた腕を通して二人の体温は暖かく共有される。 アルルは思う。 これなら、セーターは勿体なかったけど、これで良かったかな? と。 こうなったら、Sの隣にAも追加しなくちゃ。 アルルは、そんな事を考えつつシェゾの腕に顔を埋めた。 「で、何を食うんだ?」 「ボクね、まずは栗ご飯がいいな…。シェゾは?」 「俺は、梨が食いたい」 「それはデザートだよぉ」 アルルが笑いながらシェゾに寄りかかる。 「あ、本屋さんにも寄ろうよ。ボクね、最近占いに凝っているんだ」 「…それは、ちょっと勘弁してくれないか?」 「えー? なんでー?」 「それは…」 シェゾは何とも複雑な表情で笑う。 アルルもそんな彼を見て笑った。 二人はやがて、同じ様に夕飯の買い出しで人の賑わう夕刻の商店街に姿を消す。 空から見た街。 そんな中でも、二人を繋ぐ茄子紺色のマフラーは、輝いているかの様に光を反射させ、二人を際立たせていた。 バラバラに歩く人波の中で、二人だけはしっかりと繋がり、決して離れる事無く進んでいる。 運命の糸の色は、赤だけでは無いのかも知れない。 当たるも八卦、当たらぬも八卦 完 |