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魔導物語 闇に生きるという事 プロローグ



  プロローグ

 闇に生きるとはどういう事か、特に深く考えた事はなかった。
 なぜなら、自身が闇に生きる者は、それが己の世界。自然な世界。魚が、水に住む事を疑問に思わぬ様に。太陽が輝く事を、太陽の下に住むものが疑問に思わぬ様に。
 
 しかし、俺は昔、光の下で生きていた…。
 
 あの遺跡で、忌まわしい奴に出会うまで…。
 
 奴に、ルーンロードに魅入られるまで…。
 
「まただ…」
 男は閉じていた瞳をゆっくりと開く。
 その瞳は、月光の下で深く、冷たく、蒼く輝く。銀の髪が青白い光を反射して、その者をまるでこの世の者ならぬとでもいう様に照らし出していた。美しいとか、神秘的などと言う言葉では表せない、そんな光景だった。
 彼は、神殿跡らしき遺跡の巨大な柱の上で満月に照らされ、仰向けになっていた。もう、何時間が過ぎていたことだろう。その柱自体が、一体何年、何世紀の間その場に鎮座し続けているのだろう。そんな柱の上にいる男は、まるでその柱と一緒に世紀を過ごしたかのように違和感無く溶け込んでいた。
 そんな世界で、彼は終着が見えない考えを巡らせている。
「また、俺は忌まわしいと言った。奴が気に入らないとは思っている。しかし、俺が進む道を指し示した事に関しては、多少は感謝していた…。だのに何故、俺は、『忌まわしい』と言う…?」
 月は男を照らし、静かに見つめるのみ。決して応えはしない。
「何故だ…」
 静かに、そしてあがく様につぶやく声は、何に対する答を求めるものか? いや、何に悩んでいるかさえ、彼には解っていないのかもしれない。




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