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魔導物語R Black rain 後編



「え…」
 一瞬、ブラックは怯えた様な表情になる。
「俺は何も満足してないぞ」
 対してシェゾの微笑みはどことなく邪悪に見えた。
「あ…や…」
「何を抜かす」
 未だ力の入らぬブラックを軽く抱き上げ、そのまま体の位置を入れ替える。
 仰向けの体。
 窓から差し込む月明かりで体の汗が真珠の様に光り、それが豊満な女体を艶めかしく輝かせていた。
「シェゾ…」
 覆い被さるシェゾの体は、今のブラックには妙に大きく見えている。
 たくましく見えるが、同時に怖くも見える。
 思考がうまく働かないその頭。
 ブラックはまるで自分がこれから犯されるかの様な雰囲気に思え、その感覚に酔った。
 俺って、やっぱりマゾなの…?
 一切の抵抗を無にされ、相手の好き勝手に体を蹂躙される。
 頭の先から足の爪まで全てをさらけ出し、一切の意志を無視され、自分は為す術もなくただ犯される。
 そう思うと涙が出そうな程に体がぞくぞくと震えるのが分かった。
「犯して…」
 消え入りそうなつぶやきだったが、確かにそんな言葉が出た。
 無意識だったかも知れない。
「どうにでもして…」
 自分の科白のいやらしさにもブラックは高揚を押さえきれなかった。
 自分に覆い被さる、青い瞳のたくましい男。
 彼に、自分は犯されるのだ。
 ブラックは自分の股間が切なくなる程にうずくのが分かった。
「お願…ん…」
 シェゾの唇が嘆願を遮り、声に重なる。
 右手で体を抱きしめつつ、左手は下腹部に伸びていた。
 やわらかな茂みを乗り越え、その指先が濡れそぼる秘部に到達した。
 小さな突起を指がなぜる。
 体に再び電流が走り、ブラックが悲鳴を上げようとしたその瞬間。
「ま、破廉恥」
 足下から声が聞こえた。
 シェゾとブラックはぎょっとして下を見る。
「!…ねね…姉さ…」
 ブラックがなけなしの意識で確認する。
「お前…」
 シェゾも確認する。
「いくらなんでも…もう少し静かにして欲しかったです」
 はぁ、とため息をついて立ち上がった女性。
 それはブラックの双子の姉、キキーモラだった。
 やや濃い金髪が月明かりに淡く栄える。
 明るめの緑のパジャマも同じく合わさる事で、まるでその体は淡く輝いているかの様だった。
「ね、姉さん…どうして…バレ…」
 慌ててシーツにくるまりつつ、隣のシェゾにも急いでシーツにくるませる。
「バレるも何もブラック、あなたどれだけ声出していたと思っているの? 死人だって起きるわよ。あんないやらしい声…しかも大きな声だして…」
「…そ、そだった?」
 冷静な意見を聞かされ、妙に気恥ずかしい気持ちばかりが前に出てしまう。
 ブラックの顔は先程とは別の理由で上気していた。
「……」
 シェゾは慣れていたので気にしなかったが、そう言えば確かに声でかいか、と納得した。
 少しの間、表現しようのない沈黙の空気が流れる。
 多分バレているだろうとは思っていたが、こうもあからさまに行為を見られたとなると流石に開き直る訳にも行かない。
 しかも、気丈で知られる自分があんな科白で愛される事を懇願したのだから。
「さて…」
 最初に口を開いたのはキキだった。
「シェゾさん」
 ブラックを見つめていた瞳をずらして問いかける。
「なんだ?」
「私が水を差した形になりますけど、終われます?」
 何げに大胆な発言のキキ。
「…難しいな」
 先程はブラックを一度いかせただけであり、それを見る事で楽しみはした。だが、それで自分がどうとはなっていない。
 ちょうどこれから、自分が満足する番の予定だったのだ。
「では」
 キキがするりとベッドに潜り込んできた。
「な…」
 驚いたのはブラックである。
「すいません。もう少し寄って頂けます?」
「ああ…」
 シェゾが中央による。
 と、空いたスペースにキキが収まり、ベッドの上にはシェゾを中心に川、と言うか小の字が出来上がった。
「…姉さん」
「何?」
「何考えてる訳?」
「それは、もちろん…」
 柔らかな体がシェゾの右半身にぴったりと重なる。
「失礼します」
 そう言ってキキは唇をシェゾに寄せた。
「!」
 ブラックが反応する間もなく、シェゾの唇はキキによって塞がれた。
「ん…」
 甘い声が唇から漏れる。
 キキはもぞもぞとシェゾの上に覆い被さり、その体と唇を密着させた。
 下腹部をシェゾの腿にこすりつけ、ゆっくりと上下させる度に甘いと息が鼻から漏れる。
「ふぅ…ん…」
 パジャマはどちらかと言うと薄手らしい。
 シェゾの胸に、キキの胸の先端の突起が当たっているのが分かった。
「ぷぁ…ん…」
 ひとしきり唇と舌を絡め合った後、キキが息を上げつつ唇を離した。
 そして脱力し、シェゾの体に改めて身を埋めた。
 大きく上下する胸の圧迫感が心地よい。
 攻め方が似ているな…。
 シェゾは何となくキキの頭を撫でながらそう思った。
「姉さん!」
 やっとブラックが声を出せた。
「…ん?」
 のっそりと顔をブラックに向けるキキ。
 うつろな瞳と小さく開いた口。
 もうすっかりキキは溶けていた。
「なん、何でそうなるのさ! シェゾは俺の…」
 そう言いかけて再び絶句。
 キキは当てつける様に再びシェゾに唇を重ねていた。
「あ…ああっ!」
 経験した事のない状況に、珍しくあからさまに狼狽するブラック。
 対して、逆に普段は清楚を絵に描いた様な性格であるキキの方が淫靡に振る舞っていた。
 そのキスは唇に留まらず、唇の周囲にも舌を這わせ、上唇も下唇も余すことなく舐め尽くす。
 甘噛みし、舌を絡め、そして胸を押しつけつつ腰を密着させる。
 まるで自分を見ているかの様だった。
 自分も似たような事をしているにもかかわらず、見ていると赤面してしまう光景。
 そして同時に、姉にシェゾを奪われていると言う感覚がわき起こる。
「や、やめてよ…姉さん…」
 泣きそうな声のブラック。
 そう言えば、これだけ気丈なのに、この大人しい姉には意外に頭が上がらないんだったな…。
 力では負けない筈なのに、怯えた子犬の様に腰が引けているブラック。
 そんな彼女も可愛いものだ。
 シェゾは心地よい圧迫感の中でそんな事を考えていた。
「って! あんたも抵抗しろ!」
 矛先がシェゾに向いた。
「俺か?」
「当たり前でしょ! あんた、そんな好き勝手されてて、それでいい訳!?」
 楽でいい…と言うと怒るだろうな。
 シェゾはそれじゃ、とキキの肩を掴み、ぐるりと位置を入れ替えた。
 やはり体は軽く、難なく体勢は入れ替わる。
「あっ」
 キキは困ったように、しかし嬉しそうに仰向けになる。
「これならいいのか?」
 それはつまり、対先程までの自分のポジション。
「主導権は移ったぞ」
「あら、私一体どうなるんですか?」
 誘うような目つきで微笑むキキ。
「…い、いい訳ないでしょーがっ!」
 既に先程までの勢いはブラックからは失せている。
 今は只、突然のキキの出現と奪われかけているシェゾの事で慌てふためくしか出来なくなっていた。
「ね、姉さん! そうだよ! 姉さんって男に興味ないんじゃ無かったの!」
「誤解されるような言い方ね」
 違うわよ、とシェゾの首に腕を回す。
 そしてついでに、体をくっつけた。
「だぁっ! だってだって、姉さん前に言っていたじゃん! 男はもう信じないって!」
「正確には、しょーもない男は信じない、よ。シェゾさんの様な人なら…信じちゃう」
「…!」
 ブラックは八方塞がりだった。
 自分がもっと姉に対して強く出る事が出来れば…。
 そんなブラックに、当の本人であるキキが助け船(?)を出す。
「ブラックも来たらいいのに」
「へ?」
 目を丸くするブラック。
「大胆な意見だな」
「こんな格好でベッドに三人ですもの。どちらかと言うと自然です」
「…ね、姉さん」
 先程より真っ赤になるブラック。
 声はしどろもどろだった。
「でないと、私だけ食べてもらうわよ?」
「…いや」
 ブラックは小さく言うと、ゆっくりとだが自分もシェゾの横に体を並べた。
 普段はそうそう見る事の出来ない妙に恥ずかしそうな表情が、シェゾの悪戯心をくすぐる。
「可愛いぜ」
 そう言ってシェゾはブラックに口づけた。
「んん…や…だ…」
 対してブラックは尚の事恥ずかしげに身を捩らせた。
「どうした?」
「なんか…恥ずかしい」
「どうして?」
「……」
 ブラックは非難する様な目でシェゾを見てから、ちらりと彼の後ろを見た。
「姉さんの居る前で、こんな事…するなんて…へ、平気な訳無いでしょうが」
「ま」
 キキが以外、という顔で微笑む。
「貴女からそんな科白が聞けるなんて、なんだか新鮮だわ」
「俺を何だと思っている訳…?」
「可愛い妹よ」
 そう言ってキキは器用に寝たままで服を脱ぎ始める。
「ね、姉さん!」
 そう言った時、既にキキはパジャマを脱ぎ捨てていた。
 シェゾの体に柔らかな女体が張り付く。
 足が絡められ、密着感が増す。
「シェゾさんの体、暖かいですね…」
 キキが首筋に噛みつきながらうっとりと呟いた。
「な…」
 ブラックは何かを言いかけ、しかし無言で自分の残りの下着を脱ぎ捨て、同じ様にしてシェゾに張り付いた。
「俺の方がシェゾの事はよく知っているんだからね」
 キキよりも強くシェゾに抱きつき、何はともあれ自分をアピールする。
「私は、これから知ってもらうからいいの」
「後からスタートしたって、絶対に追いつけないんだからね!」
「テクニックがあれば、差は縮められるわ」
 そう言いつつ、キキの手はシェゾの下半身に滑り込む。
 そしてその指はシェゾの息子をそっと握り、いとおしげに撫でていた。
「テ…テクニックって…」
 自分も似た様な事はしているが、目の前でそれをされると妙に恥ずかしい。
 ブラックは反論しようとするも口がうまく動かなかった。
「……」
 そして、話の中心にいるはずのシェゾは何故かすっかりおいてけぼりだった。
 寝ていいかな?
 頭の上でなにやらぎゃんぎゃんと舌戦を繰り広げている二人。
 再び襲ってきた眠気の中、やはり仲が良いんだな、とシェゾは妙に納得しつつ瞼を閉じた。

 次の日の朝。
「…は?」
 目が覚め、両脇から声が聞こえる。
 シェゾは眠った自分を激しく後悔する事となる。
 何がどうなるとそう結論づけられるのか分からないのだが、シェゾは向こう一週間以内に必ず時間を作り、二人に一日ずつ宛てなければならなくなっていた。
 と言うか、俺は何故ここにいる?
「…は?」
「聞こえないふりするな」
 耳を噛まれる。
「そうです。シェゾさんがいけないんですよ。私達を相手してくれれば、昨夜で済んだのに」
 反対側の耳にキキの声。
「…いや、だから…」
「とにかく、一日ずつ俺たちに付き合う事。そしたら、許してあげる」
 にやりと笑ってブラックがシェゾに熱くキスする。
 キキも続けて深いキス。
「契約完了ですね」
 どうやらこれが誓いらしい。
「…えーと…」
 その後二人が布団から抜け出し、朝食の準備を告げる声がするまで、シェゾは事の顛末を靄のかかった頭の中で整理し続けなければならなかった。




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