Top 後編


魔導物語R Black rain



「看板だよ」
 机につっぷして寝こけていた銀髪の男に声が掛かる。
「……」
 だが、男は聞こえているのかいないのか、何も反応がない。
「おーい、シェゾ」
 そう言って白に近いプラチナブロンドの髪をもつ黒服のメイドが近付く。
 ぴと。
 いや、くっついた。
「……」
「おーきーろー」
「重い…」
 不意にシェゾの頭に顎が乗る。
「ぐ…」
「おーひーろー」
 顎をかくかくしながら喋るので語尾がおかしい。
「わぁったよ!」
 シェゾはやっと頭を上げた。
「はいはい、ちゃんと起きて」
「たく…客にそう言う態度でいいのかよ」
 シェゾはのっそりと立ち上がる。
「…しかし、度数強いっけか? これ」
 空になったグラスを見てシェゾが呟く。
「アルコールに弱くなったんじゃない?」
「んなわけあるか。勘定」
 背伸びしながら言うシェゾ。
「今日はいいの。俺が誘ったんだからさ。今度からごひいきにしてくれればいいよ」
「怪しい」
「人の好意は素直に受け取る」
 そう言ってブラックはレシートの挟まれたトレイをエプロンのポケットに収めた。
「…ま、今日はお前がバイト始めたからって誘ったんだし…甘えておく」
 助言通り、素直に受け取るシェゾ。
「ん」
 それに対して、ブラックは満足そうに笑った。
「じゃ…」
 と、店を出ようとするシェゾの腕はがっしりと掴まれていた
「ん?」
「片づけすぐだからさ、待っててよ」
「……」
 断る。
 そう言おうとした刹那に腕にやんわりとした痛みが走った。
「噛むなって…」
「あぐ」
 腕にかじりついたまま、上目遣いで非難するブラック。
 まだ、店長も居るぞおい。
 カウンターの奥では、髭のダンディーな店長が俺たちを見て笑っていた。
 ま、大の男の腕に猫みたいに噛みつく女は見ていて面白いだろうな。
「分かった」
「よろしい」
 結局シェゾは片づけが終わるまでの少しの間、椅子でうたた寝をする事となった。

「すぐって言ってなかったか…」
「ちょっと手間取ってね」
 二人が飲み屋を出たのはすっかり夜も更けた頃だった。
 もとから閉店時間も遅いので、店員が出る時間は尚の事遅くなる。
「最近、夜寒いよね」
「そうだな」
 いいつつ大あくびをする。
「シェゾは寒くない? そんな薄着でさ」
「まだ平気だな」
 ブラックが黒の皮コートを着ているのに対して、シェゾは厚めとはいえブラウンのYシャツを着ているのみ。下にはシャツも着ていないという。
「冷えちゃうよ」
 そう言ってブラックは体ごと腕にしがみつく。
 二の腕に胸が当たり、コートの上だというのにそこは柔らかく、そして暖かさが伝わっていた。
 アルコールの眠気も手伝い、それは妙に心地よく感じた。
「夜は寒いよ」
「知っている」
「二人なら、寒くないよ」
 ブラックはコートの前を開き、隙間にシェゾの腕を滑り込ませる。
 下に着ていたセーターの作り出す谷間に、彼の腕は収まった。
「あったかい?」
 先程より確かに暖かい。
 しかも、腕に感じる感触も当然心地よくなる。
「ああ」
 ふと、ブラックが震えた。
「あんた、腕冷たすぎ」
 そう言いつつも、ブラックは更に腕を胸の間に密着させる。
「外は寒いからな」
「どっか入ろ」
「どこに入る気だ」
「こんな時間に喫茶店は開いてないよ」
「っつーか眠いんだが…さっさと帰っ…」
「じゃ、家でもいい?」
「いいよ…」
 眠いとはいえ、半ば考えなしに言ってしまう。
「おっけ。いこいこ!」
 途端に元気さを増したブラックは意気揚々と歩き出す。
 腕に半分眠った状態のシェゾを釣り提げたまま、ブラックはいそいそと家路を急いだ。

「着いたよ」
 ブラックは扉を開き、シェゾを招き入れた。
「おじゃま…」
 シェゾは一応そっと家に入る。
「なにこっそりしてる訳?」
「キキが起きるだろうが」
 姉妹だから当然なのだが、ここはブラックの家でもありキキの家でもある。
「姉さんはとっくに寝てるよ。俺が飲み屋のバイトするって言ったら夜遅いから心配だって言っていたけど、案の定姉さん寝ちゃっているね。子供みたいに夜弱いんだからさ」
 けらけらと笑いながら言う。
 確かに、家の中は小さな灯りこそついているがすっかり寝静まっている。
 ブラックは姉の部屋の扉を見てそれを確認した。
 ブラックに対して姉のキキは淑女という言葉がまさにぴったりの女性であり、慣れている筈なのに未だ二人が並ぶとその性能(?)差にとまどう事がある。
 メイドの鑑たるキキに対し、ブラックは同じメイド属性でありながら、ある意味主すら顎で使う迫力を持つ。
 キキが宿屋や食事処で働くのが似合うのに対し、ブラックはもっぱら酒場で働く辺りにも、性格の差が出ている。
 最も、彼女の一番の仕事は実はギルドでのカウンター業務である。
 頭も使うが、何かと荒くれ者の多い仕事場故、彼女の気っぷと度胸の良さは重宝がられている。
 そして、彼女がそれを選んだ理由がちょくちょくシェゾと会えるからだという事は彼女にしては珍しく内緒の事である。
「ほら、俺の部屋はこっちだよ」
「だから大きい声を…」
 既に半ば夢心地となったシェゾ。
「はいはい」
 ブラックは脱いだコートも適当にシェゾを部屋に引っ張ってゆく。
「ほい」
 部屋にシェゾを引っ張り込み、ベッドの脇に立たせる。
 掛け布団をめくってからとん、と押すとシェゾはそのままベッドに倒れてしまう。
 分厚い布団に埋もれる様にして、シェゾは横になった。
「素直でよろしい」
「…寝る」
 もうシェゾは目を閉じている。
「いいけど、もうちょっと横ね」
 のそのそと移動するシェゾ。
 ブラックはシェゾの足から靴を脱がせると、自分も上着を脱いで布団に潜り込んだ。
「シェゾ、服脱がないと寝られないよ」
「……」
 考える気力も失せ、シェゾは従った。
 脱いだ服をベッドの外に放り出し、下着だけになるシェゾ。
 ブラックもいつの間にか同じ格好になっていた。
 そしてさっさとベッドに潜り込み、シェゾの横にぴったりと陣取る。
 腕と足をシェゾに絡め、ブラックの体がシェゾに密着する。
 暖かい様な冷たい様なしっとりとした感触と同時にシェゾの鼻に女の香りが流れ込んできた。
 ブラックは尚も体を密着させ、シェゾの腰骨に薄布で包まれた股間をこすりつける。
「ん…」
 ブラックの息が自然に深くなる。
 それらの感触と香り、そして声の三重奏は、シェゾの意識とは無関係に彼の股間に活気を与えた。
 触れた腰の感覚は心地よい腿の圧迫感も手伝い、少しずつシェゾの眠気を覚ましていった。
「なんか大きくなっているよ」
 ブラックは愉しげにシェゾの股間に手をあてがう。
「ならん訳があるか」
 ここまでされてその気にならない程不感症ではない。
 しかし、それでも彼は唯一の違和感にとまどっていた。
「…なんで今日は、こんなに酔ったんだ?」
「あ、ごめん、ちょっとアルコールに細工したの」
 頭に手を回し、首にかじりつきながらブラックがさらりと白状する。
「…お前な」
頭痛とは別のめまいを覚える。
「大丈夫。ちゃんとした薬だから。ちょっとアルコールの回りがよくなるだけ。血管を太くするから血の回りが良くなるの」
 だから、思いっきりアルコールが回ってしまった、と言う事らしい。
 シェゾは怒りより何より呆れが先に来てしまう。
 が、お陰で少し眠気が覚めた。
 入れ替わりに体の感覚が覚醒し始め、それは別の感情となり頭を支配し始める。
「…なんでそんな事するかね」
「だってさ、しらふ状態だとあんたって、なかなかこうならないじゃない」
 ほほに唇が触れ、そのまま唇まで流れてゆっくりと、そして深く重なり合った。
 体をシェゾに覆い被らせながら唇を幾度も重ねる。
「つまんなくって」
 ひとしきり唇が絡み合ってからブラックは呟く。
「だからってここまで手の込んだ事するな」
「結果オーライ」
 何か違う。
 そう言おうとしたシェゾの唇は再びふさがれた。
 今度は更に舌が唇を割って進入する。
 ブラックは柔らかなその体を堅い体に強く、弱くこすりつける。
 シェゾの腿を挟む形で自分の股をこすりつける。下着が、小さく衣擦れの音を立てていた。
 同時にむさぼる様に彼の唇を吸い、舌を挿れ、唾液を舐め続けた。
「シェゾ…気持ちいい…あ…くぅん…ん」
 ブラックは艶のある声で鳴く。
 腿にこすりつけた股間はしっとりと湿り気を帯び始めていた。
 その部分の熱が増す。
 シェゾは不意にブラックの腰に手を回し、強く引き寄せた。
「あん」
「ほんとに好きだな。ブラックは…」
 シェゾは耳に唇を触れて呟く。
「ん…そうだよ…シェゾだから…」
 耳に伝わる振動、そして甘くささやく声がブラックの体を震わせる。
 女性としては大きい方だが、それでもブラックの腰は細く締まり、腕を回したときの抱きしめ具合はとてもいい。
 シェゾは右手で腰を抱きしめつつ、左手を尻に伸ばす。
 申し訳程度に臀部を包み込むシルクの感触は手に心地よい感触を与える。
「ん…」
 それはブラックにとっても同じだった。
 大きな手が柔らかく、そして吸い付く様な潤いのある尻をそっと撫でる。
 手の形に自在に姿を変えるその感触はシェゾにも、ブラックにも快感を与えた。
 ブラックは背中から脳天までしびれる様な感覚に身を悶えさせ、背筋が震える。その手が少し尻の割れ目に触れるだけで声が出る。
 無意識に体が跳ねる以外の抵抗はない。
 ブラックは腰を抱かれる事でちょうどシェゾの顔の前に来る放漫な胸を、そのまま挟み込む様に顔に押しつけた。
「はやく…」
 シェゾは願いの通り、胸に顔を埋め、それからまずは左胸の先に唇をあてがった。
「はぁ…ん」
 程よい堅さの乳首が舌に心地よい刺激を与える。
 そしてそれはそのまま倍返しとなってブラックに快感を与えた。
 舌で乳首を転がし、吸い、形を確かめる様にして周囲を嘗め回す。
 うっとりする様な快楽は、しかしあっという間に麻薬の様に体を支配する。
 心地よさに飲み込まれそうだった。
 右の乳房にに標的を変えて同じ事を繰り返すと、ブラックは更に身を跳ねらせて喘いだ。
 不意に乳首を甘噛みする。
「ぁあっ!」
 一瞬、悲鳴にも似た声を上げてのけぞろうとするも、腰をがっちりと抱かれているのでどうにもならなかった。
 気を失いそうな快感から理性が逃れようとするも、胸の先は今も津波の様な快楽を体に流し込み続ける。
 必死に逃れようとするも全ては無駄だった。
 ブラックはなだれ込む快感に体を痙攣させ、悲鳴の様な歓喜の声をあげ、それでも必死に意識を飲み込もうとする快楽に耐えた。
 不意に乳首の先が解放され、殺人的な快楽から逃れる事が出来た。
 同時にブラックはシェゾに覆い被さり、そして息も絶え絶えで余韻に体を震わせた。
「し、死んじゃ…」
 時折体を痙攣させつつブラックが朦朧と呟く。
「胸しか触ってないぞ」
「だって…すごすぎ…る…」
 消え入りそうな声で訴える。
「これからだ」
 シェゾは耳元で呟いた。




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