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魔導物語R Baby face 後編



  後編

「ふ…んぅ…!」
 唇に柔らかく、しかし鋭い刺激が生まれた。
同時に、暗い視界に一瞬フラッシュが走る。
「ん…んん…」
 唇の刺激は尚も津波の様に押し寄せ、ドラコは思わず目も眩みそうな刺激から逃れようとする。
 しかし、いつの間にかシェゾの両腕はドラコの背中と腰を抱きかかえていた。
 そのため、ささやかな抵抗は何の意味も成さなかった。
 シェゾの腕は更に力を入れ、ドラコの細い腰は難なくシェゾの体に密着する。
「んぅっ…」
 鍛えられているとはいえ女の体。
 細いその体は、シェゾの胸の中にすっぽりと収まってしまった。
 厚い胸板の感触、大きな幅広い体の感触をドラコは自分の体全体で感じる。
 抱かれている。
 自分の胸が、体がシェゾと密着している。
 そして、キスされている。
 ドラコは揺るぎないその事実で体が更に熱く火照るのを感じた。
「ん…ぷあ…」
 不意に唇が離れた。
 忘れそうになっていた呼吸を取り戻し、ドラコは胸に冷たい空気を吸い込む。
 そして、眠ってしまいそうな表情でドラコは瞳を開けた。
「シェゾぉ…」
 すっかり上気した頬が、普段の勝ち気な表情との落差を生み出し、それはこの上なく艶めかしい表情に見えた。
「今度はお前からだ」
「え?」
 シェゾはほら、と促す様に腰を強く抱く。
 自分の下半身がシェゾの下半身と密着しているのが分かる。
 そして、微かに何かが当たっている感触も。
 ドラコは恥ずかしさで逃げ出したいくらいだった。
 しかし、今はそれ以上にシェゾの命令が優先される気がする。
 脳が恥ずかしいと言っているのに、心はむしろ悦びすら覚えていると自覚出来た。
「う、うん…」
 ドラコは羞恥心よりも快楽を選び、心に従う。
 恐る恐る、ゆっくりとシェゾの唇に自分の唇を重ねた。
 宙を舞っていたドラコの両腕はシェゾの体に回され、二人は抱き合う形となる。
 再び重なる唇。
 ドラコは背筋が震える程の心地よさを感じていた。
「ん…んー…んっ!?」
 不意にシェゾの舌が進入してきた。
 だが、一瞬驚いたもののドラコは特に不快とは感じず、むしろ自然にその舌を自分の舌にからめ始める。
 初めての感触。
 だがそれは生まれた時から脳に擦り込まれているかの様に、戸惑いも不快もなく、ただ心地よい感覚を生み出す。
 行為の途中、いつしかドラコの体が小さくよじれ始めていた。
 シェゾとの密着を高めようとドラコの体が無意識に動きだす。
 柔らかな腿がシェゾの腿を挟みこむ。
 滑りの良いスパッツの感触はシェゾだけではなく自分にも快感を与える。
 ドラコは無意識に、挟んだ腿を交互にこすりつけていた。
 二つの腕はしきりに位置を変えてシェゾの背中をまさぐる。
 シェゾが腕に力を込めると、ドラコは少し苦しそうな声を出しつつも更に体をすり寄せ、唇と舌をシェゾのそれに絡ませる。
「ふぅ…ん…」
 ドラコはもう、只々ひたすら唇から流れ込む快感と、体のふれあいで感じる肌の暖かさに酔っていた。
 延々と続くかと思われたそれ。
 続いて欲しいと思っていた行為。
 だが、不意に唇が離れ、体も少し離れる。
 密着していた体の間に、冷たい空気が流れ込んだ。
「やだ…」
 無意識に声が出た。
「もっと…」
 それは拒否ではなく、懇願。
「もっとして…。あの子みたいに…」
 首筋にかじりつき、甘えながらささやく。
 シェゾの足に自分の腿を絡める事で、ドラコは半ばシェゾにだっこ状態となっていた。
「お願い…して…」
 自分の意志なのに、はしたない言葉が止まらなかった。
「見ていたのか?」
 シェゾは何時かの『おいた』を思い出す。
「キスだけじゃ…やだ…あたしを…いじって…おねがい…」
 泣きそうな声でねだるドラコ。
「なんでもする…いうこときくからぁ…」
 ドラコは涙声で自分から唇を重ねてきた。
 舌でシェゾの唇を舐め、そのまま口の中に柔らかな舌を挿れる。
「ん…んぅ…ふ…」
 切ないあえぎ声と衣類がこすれあう音が小さく響く。
 不意にシェゾが唇を離した。
 微かに、唇同士が糸を引く。
「ここでか?」
「…うん」
 ドラコはシェゾの首筋に舌を這わせながら答える。
「あの子にしたみたいに、して…。あたしにも…」
 唇はシェゾの首筋をついばみ続ける。
「『傷』が残るぞ。消えない傷が。それに、きっとある点については後悔する。多分な」
「後…悔?」
 ドラコはきょとんとした顔でシェゾを見つめた。
 後悔なんて、する訳がない。
 もしかしたら、あの子はしたのかもしれない。
 けど、あたしは後悔なんてしない。
 ドラコは自信があった。
「…うん。いいよ…」
 確認、つまり是認されたと思ったドラコは、嬉しそうに泣き笑いで微笑む。
「つけて、傷…。シェゾの傷、とれない傷、シェゾの…つけて」
 シェゾはいいだろう、とドラコを抱き上げる。
 ぐったりと力の抜けたドラコは、そのまま身をシェゾに預け、頭をその胸に預ける。
 シェゾは今居た場所よりも足の長い草が生い茂る場所へ向かう。
「言っておくがここから先、キャンセルは受け付けないぞ」
 ドラコはお姫様だっこの心地よさにうっとりしつつ、こくりと頷く。
 ドラコは既に半ば夢の世界へと旅立っていた。
 だが、彼女が本当に夢うつつの世界へ旅立つのはこれから。
 シェゾは程なくしてそれに丁度良い場所を見つけ、ドラコをそっと降ろした。
 草のにおいが鼻腔をくすぐる。
 ドラコは柔らかく微笑んだ。
「嬉しいのか?」
「…うん」
 ドラコは来て、と両の手をシェゾに向けた。
 シェゾは素直にそれに従い、ドラコに体を重ね、そしてキスする。
「んっ…」
 シェゾの手が服の上からドラコの胸に触れ、手のひら全体で柔らかな胸を揉みしだく。
 格闘に耐えうる様に、彼女の服の生地は厚い。
 だが、それでもシェゾの手の感覚は鋭敏に伝わり、素肌に触れているかの様にドラコの神経を刺激していた。
 シェゾの手にも、明らかな胸の突起の感触が伝わる程に。
「んうっ!」
 未だ口を口で塞がれたまま、ドラコは身を震わせる。
 シェゾの手が、服の合わせ目を押しのけて直接進入してきたから。
「や…やぁ…おねが…だめ…ゆるし…あぅ…」
 何とか唇を自由にし、ドラコは許しを請う。
 布の上からですら今の快楽。
 直接のそれが如何ほどのものとなるのか全く想像出来ず、ドラコは期待よりもおそれを優先させてしまう。
「駄目だ」
 だがシェゾはそれを拒否。
 言うが早いか胸に直接シェゾの手が触れ迷い無く指がドラコの乳房を、その先端をこねる様に揉みしだいた。
 胸の先端から人生で一度も感じた事のない快楽が脳に流れ込む。
「あぁっ!」
 悲鳴にも似た声。
 ドラコはある意味殺人的な快楽に、頭がどうにかなってしまいそうだった。
 シェゾは更に胸元から首にかけて走る合わせ目の紐をほどき、ドラコの胸の片方をいとも容易く露わにしてしまう。
 不意に胸に感じる空気。
 ドラコはそれが何かを理解し、とうとう直接彼の前に曝された自分を理解した。
「やぁ…やだ…」
 半ば泣きべそをかいているドラコ。
 もはや自称格闘美少女たるゆえんの骨の強さ、気の強さは跡形もなく打ち崩されていた。
 そしてシェゾは一切動きを停滞することなく、胸に顔を近づける。
「ひぁっ!」
 指とは違う堅い感触が胸の先に走る。
 恐怖、羞恥心を跡形もなく吹き飛ばしたその感触。
 ドラコは無意識に胸に顔を埋めるシェゾの頭を抱きしめる。
 そして。
「…あ…き…気持ち…いい…死んじゃう…」
 先程までの涙声と同じ弱々しい声には違いないが、明らかに声質が違っていた。
 あえぎ声。
 ドラコが一線を越えた瞬間だった。
「気持ちいいか?」
「うん…うん…」
 まるで聞こえていないままに応えているかの様な返事。
 もう片方の手が腰に下がり、チャイナドレスの下のスパッツに手をかける。
 ふくよかな臀部を撫でつつ下腹部に手を滑らせると、ドラコは一瞬その身を縮めるも、程なくしてそっと股を開いた。
 自然(じねん)、シェゾの手は動きやすい部分に移動を始める。
「ん…」
 甘い鳴き声。
 そしてシェゾの手は微かに湿度の上昇を感じていた。
「腰、上げろ」
 シェゾは耳たぶを噛みながら呟く。
「うん…」
 ドラコは言うがままに腰を上げる。
 スパッツは本来あるべき場所から下げられ、ドラコは下半身に風を感じた。
「恥ずかしい…」
「安心しろ。もっと恥ずかしい事をする」
「やだぁ…」
 否定の言葉。
 だが今やその語意は承諾である。
 少しの後。
 静寂を取り戻した林の奥から、泣き声の様なあえぎ声が聞こえてくるのはこれから少し後の事だった。

 次の日。
「はい、リンゴ剥いたよ。おなか減ったでしょ」
 なにやらドラコが動けなくなっていると聞いたアルルが、彼女の家に果物を持ってやって来ていた。
「…や。あんがと」
 ドラコはベッドに突っ伏したまま、瞳の動きだけで挨拶する。
「でもさぁ、どしたの? 腰痛めてうごけなくなっちゃったなんてさぁ?」
「ちょっと、修行でね…」
 誰にも言わないが、正確には腰ではなく腰の下がずきずきと痛んでいた。
 シェゾによって息も絶え絶えの状態で家に帰されたのは夜中。
 きっと彼が運んでくれなかったら今も、森の中だったかも知れない。
 一晩経った今ですら、腹の中には何かが挿っている様な感触が残り、それが尚の事下腹部の痛みを増幅する。
「あの時は、あんなに気持ち良かったのに…」
 確かに、これだけは後悔した。
 それは間違いない。
「ん? 何か言った?」
 アルルが問う。
「…言わない」
 それでもドラコはアルルの顔を見てにやりとほくそ笑む。
 後悔は後悔した。
 でも、それなど一時の事。
 得たものは大きい。

 …これで、あんたに追いついたよ。
 あんたの痛み、傷をあたしも貰ったんだからね。

「うふふふ」
 自然と、自信に満ちた笑みが表情に表れる。

 アルル、今はそんなおすまし顔してるけど、あの時…あんたがどれだけいやらしい表情していたか、あたしは知っているよ。
 あたしだって、負けないくらいそんな表情したんだから。
 シェゾに、いっぱいいっぱい恥ずかしい事されたんだから…。

「な、何なの? その笑い方、怖いよ?」
 アルルは頭に『?』をつけたままでドラコを見つめていた。
「うふふ…いたっ! …うふふふ」
 時折下腹部に染み渡る痛み。
 その痛みを感じるたび、ドラコは揺るぎない自信を増幅させる。
 笑みと痛みの表情を繰り返しながら笑い続けるドラコ。
 アルルがそれの意味に気付くのはもう少し先の事となりそうである。

 
 
  Baby face 完
 

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